午前5時10分、起床。
まだ暗い。来た頃に比べると日が短くなってきたなあ。
午前5時50分、ついに住み慣れた家を後にする。
さようなら Ponte Storto
さようなら Santa Croce
ここにいた90日、毎日が、すごく楽しかった。
それが、ただ起きて考えごとをして、ご飯を食べているだけの日であっても。
ものすごくいろいろなことを考えた。
日本のことや、世界のことや、人々のことを考えた。
昔の人の生み出したものに囲まれて暮らしながら、まるで、自分が世界を作った神様であるかのように、世界のことを考えた。
命のこと、時間のこと、食のこと、働くということ、何かを産み出すということ。
おかげで、自分のことが考えられなくなって、自分が小説で書いていることが、ひどくどうでもいいことのような気分になって、すっかり筆が進まなくなってしまった。
待たせてしまっている編集さん、ごめんなさい。
阿川大樹は、イタリアで哲学してしまいました。
帰国したら、小説家人格を取り戻します。
去年の3月11日のあとのように、別の意味で、イタリア生活は別の揺さぶりを僕にもたらした。
大きなスーツケースを持ち上げてみて、ちょっと重いと思って、お土産のうち、自分用のアチェート・バルサミコ1本とリゾット3袋を取り出して家に残した。
歯を磨いて、水だけ飲んで、大きくて厚い家の扉を閉めて、帰国の途に就いた。
ベネチア・マルコポーロ空港で荷物のチェックイン。
制限23キロに対して、20キロ。
チャートバルサミコ、出さなくてもよかったか。
手荷物のスーツケースは制限8キロに対して7.9キロ。
こちらはぴったり。
本当はサイズオーバーの手荷物も運よく通過。
(もう100ユーロの追加荷物運送料を免れた)
いざ、帰国なり。
飛行機は満席、日本、暑いだろうなあ。
部屋を借りて一週間で点かなくなったバスルームの天井の電気、結局、4ヶ月たっても直らなかったなあ。
それもイタリアらしい、いい思い出だ。