日: 2007年7月28日

『しまうたGTS』(山田あかね)

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『しまうたGTS(ゴーイング・トゥ・サウス)』
 山田あかね[著] 小学館[刊] 1500円+税
 山田あかねの3作目、読了。
 (自分が執筆に集中できないときはいさぎよく読書に切り替えるのだ)
 主人公はデビューし損ねたミュージシャンで、脳腫瘍で残りの命が少ないと知った20才の男。
 かつてのバンド仲間・城司と自分の恋人・ナナナがふたりで沖縄にいるらしいということで、手術前日に病院からエスケープして追いかけて探そうとするうちに奇妙な男と奇妙な女といっしょになって3人で波照間島まで行く、という物語。
 女性が主人公でどちらかというと内面的な描写が中心の前2作とちがって、舞台が広くなってミステリー仕立て、という、一見、「山田あかねの新境地!」と帯に書きたくなるところだけど、どっこいやっぱり山田あかね。
 山田あかねの魅力は、登場人物の迷いとか(世間から見た)一貫性からのゆらぎとかを細かいところで丁寧に描いていることだと思う。
 人間は、こういう人がよい人(あるいはカッッコイイヤツ)である、なんて「期待される人間像」を自分でも意識していながら、本当の自分がそれと同じではないということも知っている。だから、ときにその人間像から逃げ出したかったり、いや、なんとか「こうありたい自分」を演じようとしたり、しながら生きていく。そこでの葛藤は、多くの小説の永遠のテーマだし、山田あかねの小説はいわば小説の王道をいつもまっすぐに追いかけている。
 媒体としてのストーリーはいろいろでも、つねに、そういう心の動きを丁寧に描いている。
 いちおう日本推理作家協会会員である僕としては、ミステリー仕立てに引っ張っている謎の提示のしかたにもう一工夫欲しいと思ってしまったりはするのだけど、別にそんな欠点は、この小説にとってさほど重要なことではなく、小説らしく小説を楽しめるよい作品だと思う。
 それぞれに何かを抱えながら、でも、あるいは、だからこそ、自分に正直に生きてみよう、と、少なくとも小説を読んでいる間は思っていたい、そんな人におすすめ。