月別: 2007年8月

寝たきり日記(1)

DAY2 手術後第1日:8月31日
 夜間も2時間おきに体温血圧などを計る。きわめて順調に推移。午前5時すぎ、 ガスが出る。よし、胃腸も動いている。
 明け方、うとうとREM睡眠から覚めてふと気づくと、バルンカテーテルをいれたまま勃起している。きわ
めて妙な感触。(笑)
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 午前6時、口から水を飲む。うまい。
 べッド下に溜まっていた尿はl300ml。
 寝たきりだからべッドから見えるのは空ばかり。智恵子は「東京には空がない」と言ったらしいが、どっこい横浜は空ばかりだ。
 午前8時26分、一般常食(ただしご飯はおかゆ〕完食。食うというその行為で元気が出る。オナラもよく出る。
 午前10時、べッドに小型のX線撮影装置がやって来て背中にフィルム乾板を置いて上から照射して撮影していく。すごいね、この装置。しかし、周囲にX線の不要輻射がかなりあると思うんだけど。
 午前10時30分、ナースKさんが体全部!を拭いてくれてパンツを履かせてくれる。人間にもどった気分。「人間はパンツを履いた猿だ」といったのは誰だっけ? 足の鉄腕アトムブーツのポンプも外れる。
 昼飯も完食。おいしゅうございました。
 再検査でビリルビンが相変わらず高いということで、急遽、腹部CT検査。肝ガン発覚か? 父のガンが見つかったのは心臓発作で病院に担ぎこまれた時だった。
 今回の手術なんてほとんど何の不安も感じなかったけれど、寝台に載せられてCTに向かう時には油汗が出た。
 もし残りの命8ケ月といわれたらどの長編から手をつけようか、などと真剣に考えた。やっとデビューしたばかりなのに、もっとたくさん小説を書きたかったなあと思った。
 妻の差し入れでマクドナルドのアイスコーヒーが届く。
 おしやべりしながらタ食、横になったままの食事は疲れる。これは体が弱っていたらとても食べられない。妻に手伝ってもらって食後の歯磨き。ああ、すっきり。
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 午後8時、点滴はずれる。
 同室のSさんの痰混じりのイビキがうるさいので、イヤホンをしてFMを聴く。
 病院ってイビキ率高いのかな? 75%以上だと思う。みんな病気で身体のバランスを崩しているからかな。僕もイビキをかいているかもしれないけど、自分ではわからない。(もちろんSさんにものびのびイビキをかいてもらってかまわない。病院なんだから)
 0時前、別の同室の人が眠れないとナースに訴えている。
 僕も眠れないけれど、眠る努力は特にしない。その代わり眠れない病院の夜は長いので、消灯後でもいろいろなことができるように道具をもってきているわけだ。
 寝たままの姿勢で、Zaurus でこの日記を書くのもそのひとつ。

手術日記

DAY1 手術の日:8月30日
 9時5分前病室を出発。
 下着なしでニーストッキングというセクシー路線〈病衣は着ている)
 ニーストッキングはエコノミークラス症候群予防の為だそうだ。
 5階手術室のアプローチで妻と母とに「いってきます」と手をふる。
隣では可愛いナースがいて、スタイリストバッグにレントゲンや書類を入れて並んで歩いている。
 スライディングドアをくぐると、まず丸イスに座って、シャワーキャップのような帽子をかぶる。緑色の着衣の人たちがストレッチャーをもってくる。
踏み台からストレッチャーへ。
 いよいよ手術台だ。
 僕の上には銀色のシートがかけられている。それの陰で寝間着を脱がされる。
「背中に注射しますよ」
「点滴します」
 天井には、いわゆる手術室のライティング設備。いやがおうでも、貧囲気がもりあがる。マスクをした女性の知的な美しい目にアラブの恋をしそう、なんて思っているうちに記憶は飛んでいた。
 次の記憶は病室の手前。妻と母の顔が見える。出て行ったときとは別の、ナースステーションに近い部屋に運びこまれる。
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 とあえず麻酔から覚めたことを神様に感謝だ。(マジな話、全身麻酔が最大のリスクだと思っていたので)
 左手に点滴、鼻には酸素、ペニスにバルンカテーテル、背中に硬膜外注射、と4点スパゲッティ状態だ。そして他に見えるのは天井。
 手がとても冷たい。
 腰に大きくはないがとんがった痛み。だが妙に温かい。(電気毛布がかけられていた)
 いちばん痛いのはノド。手術中、呼吸確保のために管が入っていたのだそうだ。
 両足は鉄腕アトムのブーツのようなものの中。これは機械で自動的に空気が入ったり出たりする、これもエコノミークラス痘候群予防の為。
 午後6時頃、体温37.5度くらいの正常な徴熱。血圧正常、脈拍90程度。
 午後8時すぎ、キズが痛みはじめたのでボルタレンの座薬を入れてもらう。夜勤のナースは初日にオリエンテーションをしてくれたHさん。
 座薬は絶大な効果アリ。
 うとうと細切れに眠るせいでよく夢を見る。妻でも愛人(几談)でもなく食い物の夢。なんてわかりやすい!  人間基本は色気より食い気。色恋も生きぬいてからのお愉しみ。
 と、限られた姿勢の中で休み休みやっとこれだけ書いて時刻はまだ23時57分である。夜が長いなあ。でもこうして文章を書いているとまったく退屈しない。まもなく入院後丸4日になるけど、テレビを見てつぶすヒマというのがない。
 夜中、やっぱり起きたお約束のトイレがつまる事件。第一発見者はやっぱりオバサンできっと犯人だと思う。
「びっくりしたわよ、ほんとに」
 とあくまで被害者なのだと夜中なのに大声で十回くらいくりかえす。わかりやす~。
(翌日の取材によれば原因は、生理用品。現場は男女兼用車椅子トイレ)
 推理作家は、ベッドにねたきりでも、このくらいの事件は解決できる。

瘋癲入院日記(3)

8月29日
 夜中に何度も目が覚めるが、午前7時には爆睡してて、看護婦さんに起こさ
れたときには、寝ぼけ眼。外は曇天。涼しい朝で助かる。(昨日は病室が30
度くらいあって、暑かった)
 明日、手術なので、今日は最後の比較的動いてよい日。3食、食べられるし。
 というわけで、小休止のような一日。
 午前9時ごろ、無性にコーヒーを飲みたくなって1階のコーヒーショップへ。
 この時刻の1階は外来患者が往来する立派な「娑婆」である。特別なコーヒ
ーではないのだけど、久しぶりに飲むコーヒーはコーヒーであるというだけで、
おいしい。
 病室へもどると、午前10時10分、採血。17日の検査でビルビリンが高
かったようだ。
 ひきつづき、麻酔科の医師が説明にくる。
 クスリのアレルギーがないことを確認、手順の説明。
 全身麻酔から覚めた後の吐き気については、女性は3倍くらい起こしやすく、
喫煙者は起こしにくく、乗り物酔いをしやすい人は起こしやすい、ということ
だ。
 乗り物酔いを起こしやすい体質だけれど、女性じゃないし、喫煙者なので大
丈夫かもしれない。
 そういえば、午前11時現在、検温と血圧測定が来ていない。僕がいない間
にきたのかもしれないけれど、このまま1回パスになるのだろうか。
 自覚的にはなにも問題ないけれど、病院の手順としてはあまり褒められたも
のじゃないな。作業の抜けがチェックされていない。
(結果的には、あとでちゃんと来た)
 重大なことに抜けがないように、あらかじめ知らされている手順については、
患者の方も注意しておく必要がある。病院のせいだ、といっても被害を受ける
のは患者自身だから。
 よく「先生や看護婦さんにすべてお任せします」と盲目的になってしまう患
者がいるけれど、医師も看護師も病院というシステムも、すべてがミスがなく
動くはずはない。これは製造業に於ける品質管理の考え方と同じで「人はかな
らずミスを犯すものである」という前提で、患者自身も含めて、そのミスをな
くすメンバーのひとりになってQC(品質管理)活動を続けなくてはならない。
 そのためにも次に何をするのか、入れている点滴や飲んでいる薬はどういう
作用をするのか、きちんと知識として知っていた方がいい。医療過誤のリスク
はある程度患者自身でも減らすことはできる。多くの医療事故はミスが原因で
あり、ミスさえなければ現代の医療はかなり安全になっている。
(病院のシステムは患者に知識がなくても安全に運営できるように構築すべき
なのはいうまでもないけれど)
 
 僕が受ける「腰椎後方除圧術」という手術も、手術自体の安全性は高いけれ
ど、検査で被爆することによる長期的な発ガンのリスクもあるし、たとえば点
滴で間違った液を入れられていまえば、あっという間に死んでしまう。
 病院というのは緊急事態が日常的な場所だから、自分の治療が安全でも、他
の緊急事態の影響を偶然に受けてしまって、ミスが起きる危険にさらされるこ
とがあるわけだ。
 ひとりの危篤患者への対応によって芋ズル式に思いもよらない連鎖が起きて、
自分の命が危険になる可能性だって十分にある。山道を歩いていて落石にあっ
たり、町を歩いていてビルの上から自殺者が飛び降りてきたりするように。
 医師や看護師を信用するというのは、その技術や経験についてであって、ミ
スをしないという意味では人間であるかぎり信用はしない方がいい。というよ
りQC(品質管理)の基本として、人間はミスを犯す存在である、といつも認
識している必要がある。現在の高度医療は薬剤機材の製造業者流通システム、
病院内での物流システム、手術室内でのチームワークなど、何百人という人が
関わってできている。そのどこにミスが潜んでいるかはだれもわからない。
 最後に、飛んでくる石を避けるのは自分なのだ。
 掃除に来るオバサンはけっこう大柄な人。
 特徴は、和製洋物ミュージカルの役者がカツラをかぶっているような真っ白
な縮れ毛の髪。ハンバーガー屋のマイケル・マクドナルドの赤毛を白髪にして
女にした感じ。(制服も色違いの青だが似ている)
 27日、向かいの人が退院していった後の掃除のようすをとくと観察。
 おもったとおり、大雑把。四角いところを丸く拭く。(僕の収納棚の裏にだ
って先人が落としたらしい帽子があるくらいの仕事ぶり)
 プリペイドカード式の備え付けの冷蔵庫の中も、外回りと同じ雑巾で拭いて
いた。(これはオバサンが悪いのではなく、掃除の作業仕様がそうなっている
のだと思う)
 ちなみに、当病院。各人に専用のテレビと冷蔵庫が備え付け。
 ただし、1000円のカードを買ってそれを差し込むことで動作させる。僕
はどちらも使っていない。
 今回の入院のテーマのひとつに「テレビのない生活を体験する」というのも
あるし、「病院食だけで暮らす」というテーマもあるので、どちらも不要なの
だ。
 このテレビは目の前に鎮座していて鬱陶しいけれど、4人部屋の向かい側の
人がベッドを起こしていても互いに目が合わない、というプライバシー効果も
発揮している。
 また冷蔵庫は、冷たくなくても収納スペースとしては使える(容積効率はよ
くないけどね)
 午後、担当医が立ち寄る。
 再検査でもグロブリンの値がよくないのを麻酔医が気にしているので内科医
の所見をもらうとのこと。手術できなかったらいやだなあ。
 検温36.5度。僕としては高いな。もう少し水分を摂った方がいいか。
 血圧114/60。
 入院したとたん、運動不足がひどくなるので、それだけで体調は悪くなる。
どちらかというとお通じはよすぎる系の自分が浣腸騒動になったりしているの
も、軽度の脱水と運動不足のせいだと思う。
 装具(コルセット)の領収書と医師の証明書がクラークから届く。これで保
険組合に申請すればコルセット代の払い戻しが受けられるはず。
 午後3時半、空の鳴る音。
 8月のこの時刻とは思えない。外は薄暗く、窓から見えるマリンタワーの燈
台の光が眩しく見えている。臨港パーク沖の海にだけ雨が降っているのがわか
る。そしてまもなく、下に見える道路の色が黒く変わり始めた。風力発電の風
車は回っていない。
 やがて雨脚で産みも風車も見えなくなった。
 ガラス面積が広いので、台風の時に入院していたら壮観だろう。
 入浴は午後4時半から。この先、4日ほどベッドから出られないので、これ
でもかとよ〜く洗っておかなくては。
(身体を拭いていたら、勝手に開けて「あらだれか入っているのね」といって
謝りもせず不機嫌に閉めていくオバサン。やっぱりいたよ、こういう人。これ
だから病院はネタの宝庫なのだよ)
 これを書き込んだ後は、しばらく日記の更新ができなくなります。
 ちゃんと麻酔から覚めれば、1週間後にはまたお目にかかれるでしょう。

瘋癲入院日記(2−2)

8月28日 その2
 午後0時25分 生まれて初めての点滴、左腕に。なあんか病院にいるって感じ。(笑)
 午後2時前、X線透過室で像影検査。像影剤を背中から入れて、かがんだり反ったり。
 帰りは安静なので車椅子で病室へ。部屋でCTの順番待ち。l時間ほどで呼ばれて、今度はうつぶせでCT。そこからの帰りももちろん車椅子。
 午後5時の予定の医師の説明は6時半に延びて開催。これはありがちの普通の出来事。
 結局、手術は L5/S の椎間板へルニアのみに対して行なうことに。
 L3/L4 L4/L5 脊柱管狭窄症は映像所見ではあまり悪くない。間欠跛行の症状から想定される形態と一致しないが椎弓削除による脊柱の強度低下というペナルティとのトレードオフを考えて保守的に判断する。
 説明を終えて病室にもどるとタ食が置かれていた。食べる前に点滴2本目に。
 午後8時すぎ、なんとなく眠りに落ちる。午後10時すぎ、点滴を外しに来たナースに起こされるが、すぐにまた眠る。
 翌1時40分、目が覚めてこれを書いている。Zaurusの手書き入力だと画面さえ明るければ書けるのでキーボードが見える必要がない。手書き文字認識も優秀だけど、問題は僕が漢字を書けなくなっていること。
 こういう時間帯はやっぱりNHK-FMの「ラジオ深夜」便がそれらしいな。

瘋癲入院日記(2)

8月28日
 午前6時半、前の人のところに看護師さんがクスリをもってきた声を聞いて
目が覚める。
「眠れました? 夜、一度起きてましたよね」
 夜勤明けの看護師さんお見通し。(笑)
 ベイブリッジのあたりから陽が昇ってくるので暑い。たまらずブラインドを
引く。
 午前7時半。朝食。完食。
 このあと絶食絶水。
 昨日の反省から八時半に売店が開くのを待って
 朝の検温35.9度。(昨日の夕方は35.1度)
 血圧は102/76。これはだいたいいつもの値。
 午前10時すぎ、担当のI先生の診察。いろいろな姿勢で痛いかどうか、な
ど。
 あとは太もものつけ根から、動脈血の採血。
 さて、昨日の失敗は意外なところに影響を及ぼした。
 昨夜9時前に下剤を飲んだ。今朝10時までに自然に排便があればよかった
のだが、昨日は二食だし、夕食は病院食でいつもより軽い。夕食後、お茶をゲ
ットしそこねて、その時刻には売店も閉まっていて……、というわけで、食事
だけでなく結果的に水分摂取量もかなり少なめ。その上、朝日が差し込む病室
は暑い。
 どちらかというと確実に胃大腸反射が起きて「大」の方は確実にでるどころ
か、デーパートや本屋なのでは予定外に催す方なのだけれど、そんなわけで、
肝心な(笑)今日に限って出ないのだった。
 一度、「試みて」みるが、どうにもだめ。
 せめてトイレがきゅんと冷えていてくれればいいのだが、そこはそれ病院の
トイレだから暑いことがあっても寒かったりはしない。(血圧上がる人もいる
からね)
 まあ、九時の時点で「これはでないな」とあきらめていましたよ。半分はこ
れも身体をはった体験というわけで。
「浣腸、したことありますかぁ〜」
 看護師のIさんに聞かれるが、物心つくかつかないかあたりで、イチジク浣
腸というのをされた記憶があったりなかったりくらいで、大人になってからは
未体験である。
「こういうのになります」
 とベッドに横になったてお尻を出している僕にIさんが見せてくれるのは、
大きめのレモンくらいの半透明なボディに白い樹脂でできた先っぽがついてい
る。
 子供の頃の浣腸はもっと痛かったような記憶があるけど、「へんな」感触が
あるだけでさほど痛くはなかった。看護師さんの腕がいいのかもしれない。
「五分我慢できれば上出来です」
 そういって平然と去っていくIさん。
 すぐに出してしまうと液体がでるだけなので、我慢してから出さないといけ
ないらしい。そうはいっても、ベッドでぎりぎりまで我慢するのはリスクが高
すぎる。そもそもぎりぎりで行ってトイレがふさがっていたら困るではないか。
 というわけで、不安が先に立って、一分後、お尻に力を入れて部屋のトイレ
へ。幸い空いていた。まずは場所を確保して安心。座ったあと、できるだけ我
慢してみよう。
 時計をもって入らなかったから5分より短かったか長かったか正確にはわか
らないけど、定量的に指示を出してくれるのはあいへんありがたく、便器に座
ったあとできるだけ我慢してみてから「よし、このあたりで」と心おきなくお
通じに専念したのであった。
 あたりまえだけれど、浣腸といっても入れ終わってしまえば、ただの排便な
のであった。(いや、なにか特別な期待をしたというわけじゃないんだけど)
 しかし、効果てきめんで、都合3回も行きました。
 こういうのもなるべく平温に生きたいと思えば、恥ずかしい体験なんだろう
けど、何事も取材、芸の肥やし、と思っていると、得した気分になる。
(ところで、浣腸をすると保険の点数は何点になるのだろう)
 正午からは点滴開始の予定。
 点滴も初体験なので楽しみ。
(以下、検査後の安静のため、寝るまで Zaurus に記録した)

瘋癲入院日記(1)

8月27日
 待ちに待った入院。
 午後1時20分過ぎ、入退院受付。預託金5万円を会計に払って9階の病棟
へ。
 案内された病室からは、パシフィコ、インターコンチネンタルホテル、ベイ
ブリッジ、風力発電の風車が見える。iRiver T10 のFMラジオもよくはいる。
 室温27.4度。携帯オーディオで India Arie なんか聞いていると、天王
洲汐留あたりの高層マンションにいるような感じで、すごく豊かな気分になる。
 一方で、全員お仕着せの寝間着(1日420円)になるので、廊下を歩いて
いる人がみな同じ服装(笑)をしているわけで、囚人服みたいだ。右手首に黄
色い認識票のバンドがついているし。
 幸い差額ベッド代のいらない4人部屋でよかった。個室だと1日31500
円。高い上に個室じゃ病院生活の取材にならないし。
 看護師Hさんから説明。喋り方が少し、109カリスマ店員芸の柳原可南子
に似ている。優しい感じに話そうとすると多かれ少なかれそうなるんだけどさ。
 でも、不思議にこっちが元気が出てくる話し方なのだ。
 入院生活の案内とか、手術を含めたこの先のスケジュールとか。
 いつからいつまで寝たきりだとか、尿の管がついているとか、そういうこと
が先にわかるのは心安らか。
 脊髄造影検査や手術の前日に下剤を飲んで朝までにお通じがないと浣腸です
よと、脅され(?)たり。
 普通人としては恥ずかしいから浣腸されずに済ませたいけれど、小説家とし
ては、せっかくの機会だから、そんな気持ちになるだろう、なんて興味も湧く。
 テレビと冷蔵庫も個人個人のベッドについていて、1000円のプリペイド
カードを入れる方式。イヤホンは下の売店で買ってください、ということだけ
ど、もってきたステレオイヤフォンも使えることを確認。せっかくの入院なの
で、人間観察や読書や執筆で忙しいから、あまりテレビを見ることもないだろ
うけど。
 4人部屋には部屋専用のシャワー付洗面所、トイレがある。
 水回りの音で夜中は近くのベッドの人に迷惑なので、トイレは廊下のを使う
ことになるだろう。
 午後3時前に身長体重の測定、検温、ひととおりの説明などが終わる。
 本日の残りの予定は4時から背中の脱毛、5時から入浴。あとは夕食だけ。
 というわけで、空き時間に売店で、必要な資材(T字帯、リハビリ用の上履
き)などを購入。
 隣の人のテレビでは組閣のニュースをやっている。
 午後6時過ぎ、夕食が届く。
 けっこうおいしい。量が少ないし時間がゆったりしているので、茶碗に残っ
たご飯つぶまで丁寧に箸で食べる。こういう気持ちって新鮮だ。さっそく入院
の取材成果が現れたぞ。
 病人の気持ちを自分を使って取材するため、できるだけ食べ物は与えられる
ものだけで生活してみようと思っている。
 それにしてもいいよね。何を食べるか考えなくていいのは。
 つくるにしろ、外食するにしろ、日常のなかでは何を食べるか考えるのがけ
っこう億劫でめんどくさい。食事のことに心や時間を砕くくらいなら、小説の
ことを考えたり、何か新しい知識に触れることに使いたいのだ。
 もちろん、食事はちゃんと摂れば楽しいものだけれど、日常のなかでは自分
に餌をやっているだけで、なんでもいいから食べられればいい。何でもいいの
に選ばなくてはならないのは面倒だ。あてがい扶持というのはほんとに楽でい
いなあ。(これが洋服だったら制服のようなあてがい扶持はすごくイヤだから、
面白いものだ)
 味の区別はつくつもりだし、高価で洗練された食事の価値も認めているけれ
ど、僕は基本的に粗食が苦にならないほうだと思う。それは生き方の勇気の源
泉でもある。粗食で悲しくなるようでは、小説家になろうなんて思い切ること
はできなかったから。
 今日の失敗。要領がわからなくて、夕食の後、マグカップにお茶をもらって
おくことができなかったこと。最初にそういう説明があったらよかったのにね。
 午後8時、音楽を聴きながら寝そべって文庫本を読む。
『喜屋武マリーの青春』(利根川裕)。
 コザの伝説的ロック歌手のことが書かれたノンフィクション。コザへ行くと
いつも会う、宮永英一も少し登場している。
 利根川裕といえば「トュナイト」というテレビ番組のキャスターをしていた
人だけれど、書いたものを読むのは始めて。ふーん、こういう仕事をしていた
んだ。
もってきたオーディオ
 iRiver T10
  Napster 用 および FMラジオ(世間との接点)として
  FMの予約録音もできるので、NHKの定時ニュースを録音してみようか
 Apple iPod Shuffle 512MB (縦長の旧型)
  今回は最近ツタヤでレンタルしてきたジャズ専用に
 Casio EXILIM M1
  SDカードなので、中味の差し替えが可能
  デジカメ兼用(携帯のカメラが病室では使えないから)
 イヤフォンは AudioTechnica のもの2機種(カナル型と耳かけ型)
  カナル型は適度に耳栓効果があるし、そのまま寝入ってしまっても大丈夫
もってきたパソコン
 Sharp MURAMASA
  準常用執筆マシーン バッテリーで8時間くらい原稿が書ける
 Sharp Zaurus SLC-860
  手術後起きあがれないときの執筆用 PDA型 Unixマシン
  夜間の読書用
   電気が消えてもディスプレイで読書ができる
   文字も大きくできるので眼鏡なしでもいい
   実は電子読書は意外と快適
   青空文庫(国木田独歩『武蔵野』など)を何編かもってきている
 翌1時半、すでに十分眠ってしまったので、サロンに起き出してきてこれを
書いている。

準備中

 ひたひたと入院準備。
 こういうことをしていると、毎月(時には月に2回)のようにアメリカと日本を行ったり来たりしていたころを思い出す。最近では、ヨットのクルージングか沖縄くらいしかいかないし。
 というわけで、ほんとに修学旅行のような気分で、ビミョウに緊張しながらもなかなか楽しい。
 これから、数々の未体験の事象に遭遇するのだな。
 最終的に命さえ助かるならば、せっかく飛行機に乗ったらハイジャックにあったりしてみたいじゃない? それと同じ。
 台風が近づいてくるときの、あのなんともいえない昂揚感みたいなもの。

残務整理(笑)

 8月最後の土曜日だ。
 というより、いよいよ入院が近づいてきたので、準備しなくては。
 ヨット仲間にサイン本を頼まれていたので、バイクでハーバーまで行き、事務所にあずけておく。
 午後4時半に着くと、ちょうど知り合いの船が出航していくところで、見送ると、なんとうちの船の女性クルーが乗っていた。(笑) 
 メンバーと出航時間からして、八景島の花火大会に行くのにまちがいない。
 家の近くのバイク駐車場までもどって、月極駐車カードの更新を済ませる。
 ランドマークタワーの69階の展望台のタダ券の期限切れが近いと妻がいうので、歩けない僕は自転車で、妻は歩きで出かけ、入口で待ち合わせ。
 ふだんは入場料1000円もするので、来るのは初めて。
 都市なので、うごくものが多くて、上空からの景色も意外と面白い。満員の横浜スタジアムとか、大道芸に集まっている人とか、自分が住んでいるマンションとか。
 夕食は、ランドマークプラザ5階の寿司屋。
 わりとリーズナブルな値段で寿司を食べた気分になるのでいいかも。携帯で会員登録をすると生ビール1杯がタダになる。さらに4000円の商品券もあって、腹一杯寿司食ってビール飲んで、ふたりで2000円。安い!
 まあ人生最後の寿司にするにはちょっと情けない寿司ではあるので、来週の全身麻酔、ちゃんと覚めてくれないと困るぞ。
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自転車に乗って

 一昨日、自信をつけたので、調子に乗って自転車で動き回る。
 ツタヤに借りていたCDを返却。
 ジャックモールのダイソーで電池を買う。だれかのベンチマークによれば、ダイソーの電池は意外なことに性能がいいらしいのだ。行ってみると、かなり色々なOEMメーカーの電池が売られている。容量の評価はよかったけれど、長期保存性、つまり液漏れに強いかどうかはベンチマーク記事ではわからないので、SANYOの名前の入ったものにした。
 マクドナルドでハッピーセット(ボーリングゲーム付300円:クーポン使用)
 野毛の図書館へ行って、借りていた本を返す。(今週、野毛に来るのはなんと4回目)
 みなとみらいのユニクロで下着のパンツを2枚。(入院準備ね)
 セキチューで、歯ブラシなど。(これも入院準備)

野毛遊び


 夕方、バスで野毛へ出る。
 モスバーガーで少し原稿書き。
 カウンターでお箸で食べるフレンチレストラン「Y(イグレック)」。
 ポーションも大きく、大満足。
 シェフがひとりでやっているので、混んでくるとなかなか出てこなくなるのがご愛敬。その間、ワインが進んでしまうのだ。たっぷり3時間かけて食事をした。
 都橋飲食街の「華」。
 横浜中華街生まれ、本牧育ちの中国人のママさんの店。
 これまたゆったりと話をしながら飲む。
 新宿歌舞伎町ゴールデン街もいいけど、なにより家に近いのが気楽。
 野毛にあるのは、どの店も「本店」だ。
 みなとみらいにあるのは、支店ばかり。みなとみらいはきれいで観光客には人気があるけれど、その町からは何も生まれていない。野毛は、その町の人が作った町だ。