月別: 2009年3月

再校ゲラチェック完

 再校のゲラがやっと終了。
 いつもだけど、校正ってテンションが出なくて、なかなか一気にやってしまうことができない。
 製造業でいえば品質保証の工程だから、これもきちんとやるのは当然で、そうでなければ買ってくださる読者に申し訳ないのですが、自分の中ではどうしても「すでに終わったもの」になってしまっているもんで。
 というわけで、朝方におわったところで、今日はひとやすみ。
(なんだか休んでばっかりな気がする)
 スポーツクラブを都度払いに変更するために、会員証を作りに行ってきました。
 いままで月に15000円払っていたのを退会して、都度払い1500円になる。
 黄金町のスタジオの家賃の一部に回します。
 遅い「昼食」はタイ米を炊いてレトルトのキーマカレー。
 そのあと、自転車で30分ほど走り回って運動不足を少しだけ解消。
 さて、頭を切り換えて、4月2日〆切の連載の原稿の直しだ。

黄金町の遅い午後

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 いい天気だ。
 日が暮れる前に太陽に当たりたくなって自転車で外に出る。
 行くあてがないときは黄金町。
 4月半ばからの仕事場までの通勤路を探る、という名目。(笑)
 新しいルートを探しながらゆっくり漕いで少し遠回りもして20分ほどでオフィスになる予定のスタジオの前に到着。
 阿川大樹ストーリースタジオ(仮称)
 建物の周りをぐるりと一周して、入居予定の施設にあるカフェ「視聴室その2」に入る。
 週末の宵にはライブをやったりする店だ。
 この文章もいま pomera で書いている。
 入居者は多少入れ替わることになっていると思うけれど、たぶん、これが平均的な月曜の遅い午後の空気なのだろう、なんて思いながら、自分がここで仕事をする一日をシミュレーションしてみる。
 京浜急行の高架下だから、時折、電車が通るとガタガタゴトゴトと音と振動がする。
 いつもほとんど客のいない店だけど、僕以外にもうひとり、芸術家風の人がいる。もしかしたら、同じプロジェクトの別の入居者かもしれない。店の人にいろいろ根ほり葉ほり聞いているし。
 店のBGMはちょっと大きいかな。
 R&Bというよりはソウルミュージックと呼ぶべきナンバーがかかっている。テイストとしては心地よい。日本語の歌詞の音楽を流されると、気になって集中できない。
 時折、アトリエに出入りする人が通る。
 僕のスタジオは同じ建物の店からは一番遠い位置。仕切はあるけど天井は吹き抜けでつながっているから、当然、音は聞こえるだろう。自分の音も漏れるからおたがいさま、かな。
 もし、うちで掻き消すように別の音を出したら、間にある部屋の人はたまったもんじゃないだろう。(笑)
 なんとなく人がいるような閑散としているような、ゆるゆるな空気は思った通りだ。
 人がいるなかの孤独。
 それが僕が望んでいる執筆環境なんだ。満たされたり、人と共に幸福を共有して満ち足りてしまうと書けない。少しでも不幸が心を占めていないといけない。
 18日に切った指は、ほぼ痛みはなくなって、内側から肉が形成されつつある。一番外側の皮はどうやらつながり損なったらしく、切り口から少しビラビラとなっている。
 指に絆創膏を巻いていると、微妙に距離間が違って、キーボードでミスタッチが出る。
 日が陰らないうちにまた少し走ろうか。
 そう思って、会計をする。
「さっき使っていらしたのはコンピュータですか?」
 店の人がいう。 pomera のことだ。
 ひとしきり説明して、せっかくだからと4月からここを仕事場にするのだというと、何をしているのかと聞かれ、小説家だというと「音、大丈夫ですかね」と訊かれた。
 BGMのことだ。なんだか、本心から気にかけているようだ。すぐにそこに気がまわる人なら、ご近所さんとしてうまくやっていけるような気がした。
 横浜駅西口まで漕いで、ヨドバシカメラでケーブルを買い、東急ハンズで小物を買う。
 ファニチュアを見たら、それほど高くなくて使いやすそうでカッコいいデスクを見つけた。
 もっていたカメラで写真を撮っておく。
 夕食後は朝になるまでゲラのチェックだ。
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手前の四角い窓の中が入居予定のスタジオ
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もうじき「大岡川桜まつり」が始まる
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窓の外には道を挟んで大岡川
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「試聴室その2」から川と反対側を見ると簡易旅館が見える
頭上は京浜急行の線路だ

古道具オーディオ

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 新しい仕事場のオーディオをネットオークションで揃えています。
 今日は神戸の高架下の古道具屋さんからオークションで落札したアンプが届きました。
 ONKYO INTEC 205 シリーズの A-909 という機種。落札価格は3600円。
 前日に届いた山形の古道具屋さんのスピーカーは ONKYO FR シリーズの D-V7 というやつ。落札価格はなんと950円です。
 さっそくつないでならしてみると……。
 ん? 音が出ません。
 スピーカーはテスト済みなので、アンプが死んでる?
 ボリュームを最大にすると右だけかすかに音が出ます。高音だけ。
 ははーん、もしかしたらクロストーク?
 でなければ、出力がショートして保護回路が働いている感じの音。
 背面を見るとプロセッサーイン/プロセッサーアウト端子があります。わかりました。イコライザーをつないだりするこの端子にジャンパー線がありません。
 余っているRCAのコードでここがショートするようにしたら、思った通り音が出ました。
 古道具屋さんが端子の掃除をするときに外して、つけるのを忘れたんでしょう。自分でつないで結果OKなので、クレームは言わないことにします。
 ジム・クローチ(アコースティックロック?)を聴いてみると、なかなか粒立ちがいい。
 ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」をかけてみると、これはかなりいいです。
 スピーカーの f0 が 55Hz なので、ほんとの低い音はでませんが、とてもバランスのいい音。ONKYOって正直な音を出すので好きなんですよね。新品でもそれほど高級なグレードのスピーカーじゃないけど、解像度も定位も立派です。驚いたな。
 というわけで、950円スピーカーと3600円アンプでワーグナーを聴きながら淹れたてのコーヒーを飲んだら幸せになりました。
 当初、iPod を直接挿せる小型のオーディオ装置(いわゆるアクティブスピーカーと呼ばれる商品群)を買おうと思っていたのですが、こっちが正解でした。
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用賀 D’s Kitchen

 ちょっとした理由で、用賀の居酒屋へ飲みに行った。
 店の名前は D’s Kitchen という。名前からなんの店かわかりにくいけど、焼鳥や焼きトンなどの串焼きを中心にした和食の飲み処である。
 用賀駅北口から徒歩3分のはずが、駅前に「くすりのセイジョー」がふたつあったせいで。まるで反対の方向へ歩いていってしまって、到着までに15分かかり、少し人を待たせてしまった。
 瓶ビールで始めて、燗酒がいいなと、壁の掲示でおすすめの「吉乃川」。
 最近、なんでも冷やで出す地酒をたくさん並べる店が多いけれど、燗酒を薦めているのはいいセンスだし、結果、おいしくもあった。
 驚いたのは徳利が届いたときに、杯がほんのりと温めてあったこと。焼き鳥が130円から200円という店で、この気遣いにはびっくりさせられる。
 焼き物も揚げ物も、安い値段であるのにいい材料を十分に使って、つまり、いい材料だからといって高くしたり小さくしたりすることなく、ごく当たり前のように出てくる。
 近頃の焼鳥屋は二極化していて、タイあたりで串に刺してそのまま冷凍で輸入されるものを安く出す店と、店内にジャズを流したりして一合千円以上の冷酒を並べながらいい材料を丁寧に焼いて出す店とに分かれてきている。
(カッコだけで駄目な店ももちろんある)
 前者は大体ひとり千五百から三千円、後者は四千円から五千円くらいになることが多い。
 D’s Kitchen は内装と材料が後者で値段が前者だからビックリするのだ。
 その上、従業員の女性たちも全員きちんとしていてとても感じがいい。
 焼き物だけじゃなくて、サラダもササミの炙りも手羽揚も、ことごとくおいしかった。決して濃すぎない味で素材を活かしているかと思えば、鶏皮の串のタレはしっかりとして酒の香りを上手に使ったものだったり。
 〆に頼んだ石焼きビビンバ風の器で出てくる「タコライス」も器で掻き混ぜるとチーズがとろけてとってもおいしかった。
 料理すべてに創意工夫があるし、胸をはっておいしいものを出そうという心意気のようなものが自然に感じられる。
 なんていうのかな、本当の意味で上品な店なんだな。
 いいものをおいしく出して自然に客が喜んでお金を払うという、飲食店と客の真っ正直な関係をまっとうな手段で創り出そうとしている。
 思いつく限り、するべき事を躊躇なくやっている。そんな感じなのだ。
 世の中においしい店はたくさんある。おいしくするにはコストがかかる。だから、多くのおいしい店はそれなりに高い。いい材料を使って丁寧に作って「どうだ」と出してきて、しっかりお金も取る。見合ったものを出してくれれば、それで全然かまわない。
 だけど、この店はその「どうだ」と胸を反らして客に突きつけることすらしないで、いいものを出しているんだから高くても当然だという意識すら漂っていない。
 店として、一点の曇りもなく、まっすぐに旨いものを食わしてくれる。
 ほんとに驚いてしまう非の打ち所のない店だった。二十一世紀になって、いちばん驚いた飲食店でした。
 あっぱれすごいよ、D’s Kitchen 。
 さんざん飲んで食べて、会計はひとり三千円。
 五十年以上生きてきたけど、確実に五千円のものを食べた感じがする三千円だった。
 こんな店が家の近くにあったらどんなに人生が豊かだろう(笑)と思うけど、なんにしても、残念なことに横浜と用賀はそれをつなぐきっかけがなさすぎる。
 東急田園都市線沿線のみなさま、騙されたと思って用賀で降りて行ってみてください。びっくりしますから、ほんと。

春が来た。筍が来た。

 春ですねえ。
 恒例の筍第一弾が届きました。
 三重のEさん、いつもありがとうございます。
 とりいそぎ、4本茹でて、ひといき。
 冷ますところまできたから、やっと外出できる。
 カフェでゲラ読みです。
 近くのマクドナルドでちょっと休んであと二本。
 茹でている最中は家でコーヒーも飲めないのよね。
 先日は「小女子」が1Kgとどいて、やっと125gだけ「釘煮」を作ったばかりだというのに。
 当分、筍生活です。
 しかし、筍を必死で茹でたらご飯を作る気がすっかり失せて、妻も外食なので野毛へエスケープ。
 茹でたての筍と小女子とをお裾分けがてら「華」に飲みに行く。
 金曜日なのに僕一人だったので、定番の貧乏談義。(笑)

仕事のあることの幸福

 5月発売の単行本の再校が改めて届く。
 編集者に任せておくつもりだった部分も、いろいろ確認したくなって、時間もあるので、送ってもらったもの。
 午後4時から散歩。
 まず、バイク駐車場に月極料金を払いに行くついでに、ETCの取りつけ方法変更について、現物合わせで再検討。
 部材を手に入れるため、ホームセンターまで歩く途中で電話。
 電話は某出版社から新しい仕事の話。
 電話の話だけでは、受けられるかどうかはっきりしないが、とりあえず再来週に打合せをすることに。
 実現するかどうかはまだはっきりしないが、ひっきりなしにいろいろと新規の話をもらえるのはありがたいことだ。
 ホームセンターで部材を探すが、ぴったりのものはない。
 目に入ったものであれこれ考えを巡らせるのは楽しいけれど。
 そこには売っていないが世の中にはあるはずなので、ゆっくり探そう。

白金高輪

 白金高輪の出版社で打合せ。
 会議室で始めて、途中、都ホテルのティールームへ移動。
 最後に白金方面へ行ったのは20年くらい前だと思うけど、すっかりかわっていた。
 そもそも、東横線を武蔵小杉で乗り換えると地下鉄南北線直通で1本で行けてしまうというのがすごい。
 久々に都内へ出たので寄り道をしようと思っていたのに、あまりに帰るのが簡単なので、寄り道はやめて、打合せ終了後すぐに横浜までもどってきてしまった。
 横浜駅西口通称メガネストリート(勝手に僕が名づけた)の眼鏡屋を数軒回る。下見。
 ふだん使っていたメガネのレンズにキズを付けてしまって、買い換えなくてはならなくなったのだ。3年くらい前から度が合わなくなっていたのをお金もないし、ずっと先延ばしにしていたのだけど、ちょうどいいきっかけになった。
 とはいえ、一度では決められず、見ただけ。
 そのまま徒歩で帰宅。

1月より寒いバイク

 午前10時半に起きた。
 WBC韓国対日本の決勝が始まったところ。
 というわけで、すごいビッグゲームを堪能。
 優勝できてよかった。
 とはいえ、日本と韓国以外の国は、この大会にあまり真面目に取り組んでいないのが明らか。
 非公式なオープン戦みたいなつもりで参加していて、そもそもそれほど勝ち負けにこだわっていないようで、こういう大会で「世界一」と大声で叫ぶのはちょっと気が引ける。
 でも、日本チームがすばらしかったことは確かだし、韓国チームもたいしたもんでした。
 午後4時を過ぎて、バイクで出かける。
 3月下旬だと甘く見ていた。寒い!!
 1月2月に乗るときはユニクロのヒートテック下着、タートルネック、フリース、革ジャン、などという出で立ちの上に Zippo のカイロ(ハクキンカイロのOEM品)まで動員しているので、実は全然寒くなかったのだが。

また黄金町

 WBCの野球を見終わって、あわてて自転車で黄金町へ。
 某プロジェクトの企画が通り、ちょっと変わった仕事場が使えるようになった。その打合せ。
 幸い希望通りの場所になりそうだ。
 まだ、詳細はまだ書けないけれど、4月初旬にお知らせできると思います。

軽い命

 東京マラソンでタレントの松村邦洋さんが倒れたという。
 除細動器(AED)で一命は取り留めたというけど、後遺症は大丈夫なのかな。
 なんだか、いいわけのついた辛い苦しいをテレビで見せて、「**なのにがんばった」と人を感動させる、というのがやたら流行っている。
 年寄りなのに、デブなのに、貧乏なのに、(苦労と無縁に見える)美形なのに、お母さんなのに、甲子園出場が決まった直後にお父さんが死んだのに、とかいうやつだ。
 そして、そういうのいうのを見て、「わたしもがんばろうと思った」りする。「元気をもらった」なんていう。
 いいわけは関係ないよ。マラソンはマラソンだ。野球は野球だ。山登りは山登りだ。柔道は柔道だ。
 それぞれやりたい人がそれぞれの事情を抱えてしっかり自分のためにやればいいよ。
 元気は人からもらわないで、自分で人生を見つめて前を向けよ。
 肥満の人がマラソンに向かないのはわかっている。
 それを走らせる番組ってなんなんだろう。
「命がけでがんばります」
 言葉としてほんとうにしょっちゅう使われている、命がただの言葉になっている。
 その軽さのままに、ほんとに命をかけてしまう人が後を絶たない。そして、無意味に死にそうになったり、ほんとうに死んでしまったりする。
 たくさんの人がマラソンを完走するけど、たとえ5時間のタイムだってちゃんとトレーニングしなければ完走できない。でも、その為の努力をする人が今日だけで3万人もあの場所にいた。
 それが素敵なのだ。 無名の人が無名のまま、黙々と「自分のために」がんばったのだ。それだけでいいじゃないか、と思う。
 友達もひとり走ったはずだけど、どうしただろうと、やがて嵐になってしまった横浜の空を見上げて思っていた。
 夜は、連載の第五話を書く。