子どもの頃、家にコロンビアの電蓄があって、SPレコードがいくつかあった。
ベートーベン 交響曲第6番「田園」 ブルーノ・ワルター ウィーンフィル
ベートーベン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 演奏家は記憶にない
これらは5枚組でそれぞれ一曲だった。 一曲聴き終わるのに何度もかけ替えるの。
その他に、モーツアルトの40番、41番なんかがあった。
レコードが回りながらアームが揺れるのが面白くて、盤面を見ながらよく聞いていた。
あるとき、この田園を聞きたくなって、探したらCDで発売されていた。なんと1936年の録音だ。
CDなのにスクラッチノイズがあるし、もちろんモノラルだし音は悪い。
仕事のBGMにワルターの田園を久しぶりにかけてみた。
最初「音が悪いなあ」とまず思うのだけれど、ずっと聞いているとそんなことは関係なくなっていつのまにか引き込まれているのだ。
ときどき不思議な懐かしさを感じる。どの田園ともちがう、幼少の記憶の奥にある田園だとしみじみ思う。意識しないでものすごく細部が魂の中に刻まれているのだと思う。
やがて、小学校4年で大阪の豊中に引っ越して、そこで初めてLPレコードのクラシックを買ってもらう。
カラヤン・ベルリンフィルの「運命・未完成」。
これも同じモノラルの電蓄で散々聴いた。なにしろ、他にほとんどレコードがなかったから、毎日家に帰ると裏表をそれぞれ二回ぐらい聴いていた時期がある。
たぶん、あらゆるレコードやCDのなかで、いちばん繰り返し聞いた曲だと思う。その前もあとも、これほど聴いた曲はない。
まだ家にあるけれど、擦り切れていて、音がシャアシャアいうし、針の重いモノラル電蓄で何度も聞いたせいで、ステレオ録音のはずなのに、音はほとんどモノラルになってしまっている。