ことの起こりはふたつの事件(?)だ。
ひとつめ。
この冬、スタジオに置いてあったタカミネのエレガットをケースから出したら、壊れていた。
乾燥のために、表板が割れ、ブリッジが飛んでしまった。
木でできている以上、直して治らないわけではない。
けれど心臓部が壊れたようなもので、修理には相当の期間と金額がかかる。
治ったところで、音は変わってしまう。
それほど高級な楽器というわけでもないし、強い思い入れのある楽器というわけでもない。
痛々しくて見ていられないけれど、それを無理に直すモチベーションもない自分に気づいた。
ふたつめ。
4月にコザへ行ったら、シンガー・ソングライターのヤラ・ヤッシーが新しいギターを買っていた。
ヤマハの10万円ほどの楽器だけど、これが思いの外いい。
レスポンスも音のバランスもとてもいいのだ。びっくりした。
30年以上前、ヤマハのギターはあまり良くなかった。
ヤマハだけでなく、その頃は20万円以上出さなければ無条件で「いい」と思える楽器なんてなかった。
10万円以内では、選択肢は「ヤマハ以外」だった。
ヤッシーのギターを弾いてみて、ヤマハのイメージはまったく変わった。
4月に予定外に連載の仕事が入った。
その金額の範囲内で、気に入った楽器を買え、という啓示だ。(笑)
というわけで、書籍の〆切をクリアしたら、エレガットを買おうと思っていた。
候補は YAMAHA NTX1200R もしくは NCX1200R だ。
(型名だけみるとヤマハの1200CCのオートバイみたいだ)
23日、明け方にS社向けの長編を脱稿した僕は、いったん帰宅して睡眠を摂ると、夕方から横浜駅西口のヤマハにいって、この2台のギターを試奏して NTX を買うことにした。
どちらにしようか少しだけ迷ったが、どちらかを買うことに迷いはまったくなかった。
たかだか10万円ほどの楽器とは思えないほど良かった。
どの弦のどの音もバランス良く鳴る。
レスポンスが良くて、弱い音もちゃんと出る。
スタジオに持ち帰って数日になる。
まず、弾き方が変わった。弱い音を積極的に使えるということは、それだけニュアンスが細かくなる。
次にアドリブのフレーズが変わった。
アドリブのフレーズには、楽器がもっている「いい音」をたくさん使おうという自然な選択が含まれていたことに気づいた。
いままで弾いていた楽器よりいい音のする場所がたくさんあるから、いままで知らずに避けていた音を使うようになったのだ。
新品の楽器を買ったのは30年ぶりくらいだ。
新品を買っていないから、僕は30年間の楽器製造の技術の進歩を知らなかったのだ。
スチール弦のエレアコも買い換えたくなっってしまった。困ったものだ。