リアル探偵ごっこ

 午後4時過ぎ、遅いランチを食べた帰りのことだ。
 途中に通りかかった路地の奥。
 風俗店の外に女性が一人で立っていた。
 あたりは風俗店の密集地。
 女性が通り過ぎることはありえるが、風俗店の外に立っているのは、いくつかの特殊なケースに限られる。
〈彼女は、中から出てくる人間を待っている〉
〈出てくるのはおそらく男で、いまなにがしかの料金を払っているのではないか〉
 仮説を立てた推理作家は一旦通り過ぎ、電話をかける振りをして立ち止まる。
 さっきの女性が、推理作家を追い越していく。
 思った通り、若い男性と一緒だ。
 推理作家は50mほど間を空けて尾行をはじめる。
 前に某業界風の男性がやはり同じルートをたどっている。
〈もしかしたら彼はガードについているのかもしれない〉
 商店街へ出たところで、急に腕を組む。言葉を交わしながら、少し進んで今度は手を繋ぐ。
 それ以降、一見したところ、仲のよいカップルに見える。
 カップルは、商店街をまたいで次の通りを左に曲がる。
〈やっぱり〉
 100mほど先に、ラブホテルがある。
 その前まで来て、その男女は女性がリードするかたちでホテルに入った。
 業界風の男はそのままホテルの前を通り過ぎ、推理作家は手頃な路地を曲がってその場から離れた。
 恋人同士なら、昼下がり、風俗店から出てそのすぐ近くのラブホテルには入らない。