このところ、書き下ろしの引き合いをよくいただく。
全部ひきうけると*冊になる。既刊の*倍だ。
ありがたい。ありがたいが、戸惑っている。
いままでの執筆ペースでは全部こなすのに何年もかかってしまう。それでは出版社も困ってしまうし、こちらも立ちゆかない。
職業作家としての執筆体制を確立しなければならない。
質を落とさず、マンネリに陥らず、それぞれに渾身の作品を、年に4冊書くことを目標値として決めた。
資料集め、取材、打合せ、書くこと、ゲラ、など、かなり同時並行でやっていく体制にする必要がある。
ちゃんと切り捨てるべきことは切り捨てて、日常生活を「戦う小説家」に改造して行かなくては。
「うれしい悲鳴」という言葉があるけれど、じっくり考えてみたら、ほんとに悲鳴を挙げたい気分になってきた。なんとなくニヤニヤ喜んでいる場合じゃなくて、むしろこれは本当にピンチだ。
どうする阿川大樹。
Diary




次の次、第4作に予定してる小説の取材。
横浜大岡川沿いの黄金町から初音町にかけて桜通といわれる場所があり、そこは2005年に排除されるまで、「ちょんの間」と呼ばれる売春宿街だった。
聞くところによれば、15分3000円とか5000円とか。 (ながい歴史のあることだからたぶん調査時のちがいだろう)
間口は自転車の長さほど。
看板には「スナック」とあり、なかにカウンターはあるが、そこで酒を飲む人はいない。一番奥の狭い階段を登ると二階にセンベイ布団が敷かれた部屋があるわけだ。ドアの形は多少違うが、建築様式はきわめて似通っている。
2002年ごろには、夜になると、白人女性(東欧系)が店の外に、ボディコンとか超ミニで立っていて、ピンクや青の蛍光灯で照らされていた。肌が白い彼女たちはそんな光で現実感のないSFかCGの世界の女みたいに見えたものだ。
路地の向こうとこちらのエンドには用心棒と思しき男性がそれとなく立っていた。推測されるその役割は、狼藉者の排除、女の逃亡防止、警察の手入れの検知。
女性はコロンビア人やタイ人が多かったという人もいる。



2005年、行政によって一掃された売春宿は、いわゆる再開発が起こっている。が、イメージの悪い街の狭くて小さな物件、つまり、安い家賃によって、若者たちにビジネスチャンスを生んでいる。
新しい店の中を覗くと、かつての室内の構造がよくわかる。
大岡川を隔てて二本ほど伊勢佐木町よりの通りを若葉町といい、そこはタイ人街である。
10kg入りのタイ米が買える小さなマーケット。
タイ料理の店が点々と並ぶ。
そのなかの一軒に夕食に入った夜9時過ぎから11時前まで、店の中はタイ語しか聞こえてこなかった。
大きなスタイリストバッグをふたつ、重そうに両肩にかけた女が、店の主人のところに、音の出るぬいぐるみを行商にやってきた。会話はやはりタイ語だ。
しばらく彼女の顔をじっと見つめて話を聞いていた店の主人は、やがて顔の前で手を振って「いらない」と意思表示をした。
一晩にいったいいくつ売れて、彼女の収入はいくらになるんだろう。
午後10時現在、彼女のバッグははち切れんばかりだった。
「ちょんの間」の内部を撮影した関連エントリーは こちら


本日、出版社から届いた本。
『現役東大生キャバ嬢のキャバクラは数学だ』(黒咲藍 徳間書店)
執筆資料本。
キャバ嬢だと理系で東大は売りになるけど、小説家が理系で東大出ていても売りにならない。
でも、この本、なんとなく男が書いたような文章。まあ、理科系女とか、女優とかは男性的だから、と思えば普通なのかもしれません。
最近、CMで Will You Dance ? が流れるので、昨晩あたりから Napster で、ジャニス・イアンを聞いています。
ジョニ・ミッチェルもそうだけど、このあたりみんな健在で、それぞれにちゃんと進化を遂げているんだなあ。
Will You Dance ? といえば、テレビドラマの不朽の名作「岸辺のアルバム」です。
なぜか「あなたバナナジュース好きね」というセリフが頭に残っています。
代理人からメールが来て、原作料の一部が近々に入りそうなので、かろうじて年が越せそうだ。(笑)
昨日会ったばかりの、某社編集長からメール。
7月に預けてあった50枚の短編が1月発売の小説誌への掲載が決まったとのこと。
詳細はしかるべき時期が来てからお知らせします。
本日届いた本。
『天使はブルースを唄う』 山崎洋子 毎日新聞社
『黄金町マリア』 八木澤高明 ミリオン出版
『白いメリーさん』 中島らも 講談社文庫
いずれも、いま書いている長編の次、第4作になる予定の長編の資料。
DHCのサプリメントとか、配達記録の郵便物とか、携帯電話の電池とか、いろいろ配達物が届く日だ。
深夜、録画してあったドキュメンタリー『中国エイズ孤児の村』(2007アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門受賞作)を見る。これは歌舞伎町小説の資料として中国の田舎の景色や家の中のことを知りたかったためだが、他にもいろいろヒントになった。
午後4時、渋谷のホテルで編集者と打合せ開始。
準備していった、新作のコンセプトとプロットについて一発OKとなる。
これで、第三作の発売スケジュールは、まずは僕の執筆スピード次第。(もちろん出版者側の都合というのもあるけど、それはだいたい書き上がってからの話)
いろいろ、後ろもつまっているので、トップスピードで行こう。
原稿を何年も待ってもらえるような大家ではないので、注文があるうちにどんどん書かないと。
現在、5社から長編の書き下ろしの依頼を受けているけれど、文芸出版の世界は商慣習として基本的に口約束の世界であり、催促されないままこちらが書かなければ、そのまま作家生命が立ち消えになってフェードアウトしてしまうだけだ。
出せば必ずたくさん売れる人気作家とちがって、阿川大樹の本が出せなくなっても、代わりに他の原稿が入れば出版社は全然困らない。僕のことを評価してくれている編集者が、社内で異動になったり退職したり組織変更があったりすれば、引き受けたつもりの執筆依頼がなかったことになる可能性だってある。
ましてや新作も、映画やテレビドラマとのタイアップなどの話になれば、いろいろな先方都合で話がリセットされ、小説の話までなくなってしまうことだってふつうにありうる。
とにかく、話が立ち消えにならないうちに確実に原稿を書き上げてしまう、というのが重要。
逆に、来年末までに5本を書ききれば、おそらく小説家としての採算ラインに乗ってくるだろう。
というわけで、第7作までをぼんやりと見据えながらの書き下ろし第3作目は、新宿歌舞伎町を舞台にした一風変わった女たちのハードボイルドサスペンスになる予定。これまで描かれていない視点での新しい歌舞伎町小説になるはず。
一応、本格的な執筆にGOがかかったので、ここはやっぱり舞台になる歌舞伎町へ。
まずは、鰻でも食って勢いをつけようと、新宿駅西口を出て、思い出横丁(別名しょんべん横丁)入口の「うな丸」へ。
ここの鰻丼は最高ランクの松うな重(肝吸付2200円)まで6ランクあり、それぞれ身の丈に応じて注文する。かけだし作家は当然、最低ランクの並うな丼(吸い物付き670円)。載っている蒲焼きは小さいけれど、味はいい。安いけど、それでも横丁の反対側にある牛丼2杯分の値段だから、貧乏人の贅沢にはちがいない。
そのあとは、まず、歌舞伎町のいくつかの地点の定点観測へ。
そして、芸能の神様、花園神社を表敬訪問(小説は芸能なのかという疑問はこの際おいておく)。
境内は、今週末からの酉の市のしつらえがすでにできていた。
7時の開店時間になったところで、ゴールデン街の小さな和食の店「やくみや」を覗く。が、すでに予約いっぱいで入れない。
聞けば、今週いっぱいでゴールデン街の店を畳んで、荒木町(四谷)へ移転するのだそうだ。
名残を惜しむ人で閉店までずっといっぱいになっているらしい。ここは千葉大を出た才気煥発の女性オーナー料理長が、ゴールデン街らしからぬ凝った和食を出す店で、4年前の開店直後から行っているのだけれど、最近は予約しないとほとんど入れなくなっていて、ふらりと店を決めたい僕のゴールデン街気分では、すでに事実上幻の店みたいに敷居が高くなっていた。
荒木町の店は広さが倍以上になるということで、めでたいことなのだけれど、僕としてはゴールデン街の行きつけがひとつ減ってしまうのは寂しいかな。
もう二度と「ゴールデン街のやくみや」のカウンターに座ることはできないのか。
広くなれば入りやすくなるけど、四谷では行く機会も少なくなる。
(そういや荒木町には出版社があって、何年か前、そこからデビュー作が出そうになったことがあったのだ)
9時にオープンする別の店が開くまで、それでは、と、歌舞伎町案内人・李さんの「湖南菜館」へ。
鰻の後ひとりで中華というのもヘビーだけど、2週間前に食べた「毛沢東の豚の角煮」をまた食べたくなったのと、今日は小説のキックオフの日なので、歌舞伎町ならこの人、ということで。
料理を1皿と、紹興酒をグラスで2杯。
会計をして、買えるところで「李さんによろしく」とお店の人に阿川だと名乗ったたら、「ああ、あの本の阿川さん」と言われた瞬間、エレベータ側の入口から李さんがちょうど現れて、二言三言挨拶。
「あの本の」とはどんな意味だったんだろう。前回、『D列車でいこう』にサインして置いていった本のことだとは思うのだけど、その従業員のコ(かなりかわいい)が読んでいたりするとか。
次は、センターロードの大型マクドナルドで100円のアイスコーヒーを飲みながら定点観測のつづき。
明け方、4時頃と、夜の8時半の客層のちがいを確かめておく。
9時になるのを待って、ふたたびゴールデン街のA店へ。
いつもの感じでまったりといろいろな話をして、11時過ぎに町を後にする。
帰宅の時点で、万歩計は8000歩。手術後最高記録。徒歩で取材をするといきなり歩数が伸びる。
帰宅後は、朝まで、さっそく執筆。
午後3時過ぎ、横浜美術館へ。
有名人100人による RICOH GR Digital というカメラによる100枚の写真展「photoGRaph100」。
僕も GR Digital を愛用していて、公式サイトやこの日記サイトの写真のほとんどは GR Digital で撮影したものだけれど、残念ながら有名人ではないので声がかからなかった。作家では角田光代さんとか、川端裕人さんとか、赤瀬川原平(尾辻克彦)さんとか。
本当のお目当ては、プレスリリースで発表になったばかりの新型 GR Digital II の実機を触ってみられること。細かなところを実直に改善していて、よくできていました。手元不如意だし、買い換えはしないけれど、今のが壊れたら迷わずこの新型を買います。
III 型が発売までに有名になって、次回には「photoGRaph100」の100人に選ばれるようになりたいものだ。ちょうど次のモデルチェンジのころには、阿川大樹が原作の映画やテレビドラマが世に出ているかもしれないので、ちょうどいい目標かもしれないな。(笑)

(写真は、横浜美術館前の水場 撮影はもちろん GR Digital )
おっと。実は Ricoh のページに僕の後ろ姿が写った写真があります。(笑) わかるかな?
夕食後は、いつものように小説書き。
温暖化や放射能で人間が死んでしまっても、それくらいのことで地球が壊れることはない。
なので、地球にとっては人間が何をしようとへのかっぱなんだって意識をまず持とう。
その上で、地球じゃなくて自然じゃなくて「僕」が困るから「エコ」を目指そう、と言えばいいのに、たくさんのひとが、宇宙の真理みたいに青筋たてて「エコ」を口にするのが、「喫煙は悪だ」と言っている人や、「子供(またはペット)が嫌いな人」を「冷たい人」だと思う人みたいで、ちょっといやだ。
排出炭酸ガス削減するのに、人口を減らすって発想はないのかなあ。
そもそもこの問題は総量の問題であって、比率の問題じゃない。
人口を10%減らせば、10%増しの暮らしをしても、まだ1%くらい削減できる。食糧自給率だって上がる。
ゴールデンウィークにきれいになる東京湾とか快適になる東京を見ると、いつもそう思うのだ。
少なくとも少子化はいちばんのエコだ。
ひずみのない少子化社会はつくれないものだろうか。
手がけている長編について、第一回目の小説の神様、いらっしゃいました。
編集者とは年内にもう一冊出しましょう、ということになっていたのに、なかなか構想がまとまらず。何ヶ月も苦悶してたけど、やっと、自分の背中を押せるところまできた感じ。
(編集のOKが出るかどうかはまた別だけど)
少なくとも、こんなのを書きたいのだ、と胸を張って言える気持ちになった。
というわけで、一区切り。
目の前が開けてきたお祝いに(笑)、午後11時を過ぎてから野毛へ出かけて呑む。
なじみの店で、ゴキゲンになって帰ってきました。午後2時過ぎ、徒歩で帰宅。
昨日はシリコンバレーの風だったけど、どうやら今日は沖縄の風。
まず、12月に行くANAのチケットをファイナライズ。
そしたら、Gyaoのメールで映画「Aサインデイズ」がまもなく終了という連絡。あわてて観る。
「Aサインデイズ」は、ベトナム戦争当時の沖縄コザが舞台。 コザは、嘉手納基地の門前町で、僕がいつも行っている場所だ。今となっては一緒に呑んだ友だちが20人くらいはいる。
この映画は、『喜屋武マリーの青春』というノンフィクションが原作で、コザが他のどこにも似ていない形で独特の輝きをもっていた時代の物語だ。
中に出てくるライブハウスは、「セブンスヘブンコザ」にそっくりだし、「ニューヨークレストラン」に似ている店も出てくる。裏通りも見たことのあるようなところ。
日曜日(28日)に開店40周年を迎えたいきつけの「カフェオーシャン」もかつてはAサインバーだった。映画に出てくるライブハウスもカウンターはむしろこっちの店に似ている。
そんなわけで、今晩はコザのことを考えている夜である。
次の小説は歌舞伎町を舞台にニキータのような女性(?)を書くつもりなので、プロットをつくりながら、歌舞伎町関係の資料を読んでいる。
あとは、ドーピング関係の資料調査。もうひとつは、この間取材をしたシャッター通り商店街。
なにしろ、当分長編書き下ろしが続くので、いろいろと資料読みや取材準備が同時並行。
コザのホテルも予約しなくては。
