梅雨の明けた沖縄でクーラーのない宿で過ごすのが、今回の取材・執筆旅行の重要なテーマである。ようするに沖縄の暑さを実体験したいということ。
窓を開けて寝ると、朝には汗びっしょり。
さっそくシャワーを浴びる。首の周りが少しアセモっぽい。
汗疹なんてできるのは何十年ぶりだろう。
シャワーの後は洗濯。
汗でグショグショのシャツが腐ると面倒だし。
屋上に干すと、1時間経たずにほとんど乾いてしまう。
夕立にあって濡れてもそのまま干しておけばすぐに乾く、とこちらの人はいう。
そういうディテイルが小説に重要なのだ。インターネットで事実関係は相当程度に調べられるが、こういう生活上のディテイルは実際にその土地に行かないとわからない。
汗で布団も湿気ていたが、こちらもすぐに乾く。
暑さ一日目の感想。
沖縄の31℃は、都会の31℃よりも過ごしやすい。
気象台で測定した温度と実際の町の温度との差が都会では相当違うと思う。
ただし、沖縄の外の日差しは強烈。
午前11時過ぎ、近所の「サイドウエイズ」でランチ。(コーヒー付き780円)
ここは量が多くなく、おしゃれなので、女性に人気のランチ。
午後1時、「オーシャン」に出勤。(コーヒー350円)
長編、執筆。
午後6時過ぎ、宿の下の「アートコザ」(三線作りの名工・照屋林次郎の店)でブルースシンガーのひがよしひろと会う。
ひがよしひろがそこにいたのは、コザ高校のクラス会の打合せのためであった。
同級生夫婦一組、ホテル社長M氏が合流。
店内では三線教室が始まったし、冷房があまり効かずに暑いので、我々は外にテーブルを出して飲む。三線の音が聞こえてくるのがいい。
スコールが来て、あわてて向かいのFMコザの軒下に避難して、さらに「クラス会の打合せ」はつづく。
某一流B級ホテルのM氏はコザ観光協会の重鎮で、以前から仲良くしていただいているのだけれど、ひがよしひろとクラスメイトだとは知らなかった。
店ではオーナーのリン坊はすでに岐阜に行ったそうでいなかったが、りんけんバンドのメンバーが使いっ走りで、タスポを持っていない僕のタバコを買ってきてくれたりするのである。
コザではミュージシャンもごくふつうの職業のひとつだと思われている。
で、ミュージシャンが食堂の従業員をやっていても、それもふつう。
10時半、その場は散会。
ひがよしひろ、M氏、阿川の三人は、中の町のラテン酒場「アルハンブラ」へ繰り出す。まもなく開店45年になる超老舗。
11時からピアノ演奏とボーカルのライブが始まる。(その日初回の開始時間が午後11時だぜ)
オーナーの幸子さんは、「年金もらっている年齢です」というのだが、40代だといっても、信じる人は多いだろう。
午前1時半ごろ店を出て、中の町の真ん中の通りを宿に向かう。
途中の馴染みの「SHUN」に立ち寄って、もう飲みたくないけど扉を開けて「来てるよ」の挨拶だけ。
ところが「コザに阿川大樹が来ている」という町の噂はすでに伝わっていて、マスターはすでに僕が町にいるのを知っていた。夕方にはKさんから電話がかかってきて「いるんだって」といわれるし。コザは狭い。
午前9時起床。
妻を送り出して、旅支度の最終パッケージ。
YCAT(横浜シティエアターミナル)でANAにチェックイン。そこで荷物を渡せば受け取りは那覇空港。
羽田に早めについて、朝昼兼用の食事。レストランはみなけっこういい値段を取っているのだど、意外に安かったのがお寿司屋さん。日替わり握り寿司(1280円)、丼なら1000円で、近隣の洋食・中華などより安い。
いつも思うのだけど、空港は「たかが駅」なのだから、マクドナルドやドトールや立食いそばがあればいいよね。なんで飛行機に乗るってだけで昼飯が1500円になってしまうのか。利用者の利便性よりも利権が優先されている。
腹ごしらえが住んだところで、クレジットカードのラウンジで、たっぷりのトマトジュースとコーヒー。
平日のラウンジはビジネスマンが多いが、こちらは短パンとポロシャツである。
無線LANが使えるので、パソコンを開いてメールチェック。
午後4時少し前、ANA129便那覇到着。
コザへ向かうバスの便がよくわからないので、ゆいレールでおもろまちまで出る。行き先にコザが書かれているバスを見つけて乗ろうとすると、
「空港行きのバスはあっちだよ」
と、運転手。大きなサムソナイトを転がしている人間は空港に行くものだと思っているらしい。でも、向こうからそう声をかけるってことはとても親切ってことだ。
「いや、コザに行きたいんだけど」
「ああ、それならこのバスが20分後に出るから、それまで待合室で待っていて」
待合室で時刻表を見ると、その路線のバスは3時間ほどなかった。ラッキーだったということか。
待合室では、男1女4の高校生のグループがジベタリアン。
「さあ、帰りましょうね」
さて、時間がきてバスに乗ると運転手がいう。
空港でなくコザに向かうのなら、観光客じゃなく沖縄の人間が本土から帰ってきたのだと思ったのだろう。
(その前の雑談で僕が沖縄のイントネーションで話したということもあるかもしれない)
なんとそのバスは那覇バスセンターを経由するではないか。(つまり「ゆいレール」では戻るということ)
まあ、バスセンターについたのは飛行機が空港について1時間後で、なんとなく振り出しにもどった感じだ。
どの地方でもそうだが、沖縄の路線バスというのはほんとにわかりにくい。
まあ、そういうのも「なんくるないさあ」とやり過ごすのが沖縄流。どんだけかかっても着くのだからいいではないか。
(ゆいレール260円、バス940円)
午後6時過ぎ、コザに到着。
家を出てから7時間。沖縄は近いがコザは遠い。(笑)
(自家用車なら空港から30分あまりしかかからない。ようするに公共交通が不便なのである)
商店街を抜けてゲストハウス「ヒトトキ家」を目指すと、三線作りの名工リンボー(照屋林助の息子)が自分の店にいた。(ヒトトキ家は彼の店の3階にある)
バスを降りて5分たたずにさっそく知人に会う。
チャックインして一週間の宿代8000円を払う。相部屋だけど、他にいないので一人部屋みたいなもの。まあ、週末はロックフェスだから人が来るだろうけど。
荷物を開いて、早々にゲート通りの「オーシャン」に向かう。
例によってカウンターにいた3人は全員知り合い。(笑)
生ビール500円。
『フェイク・ゲーム』の何分の一かはこの店で書かれたものだ。いつも長居させてもらっているお礼に、1冊サイン本を献本。
午後9時前、パーラーリンリンへ。
ベーシストのコーゾーが内地の古い友だちと飲んでいたので合流。
35年前、沖縄本土復帰直後に演奏にやってきたという彼ら。仲間は最新鋭のプロ用のモニターイヤフォンを扱っているということで、聴かせてもらったら、これがまたすごい。
スティービー・ワンダーとかアンジェラ・アキとかが使っているという。
音楽ソースは iPod touch なのに、めちゃめちゃいい音。
バイノーラル録音のデモもすごい。
ただし、個人個人の耳の形に合わせて作るので、値段は10万円とか24万円とか、そういう値段である。
耳に合わせて作ることで、外の音がほとんど聞こえないようにすることができるんで、大音量のライブでも小さな音量でモニターが可能になる。つまり、耳に優しいわけだ。
隣のテーブルにはギタリストのTARAちゃんがガールフレンドと一緒に来ている。
TARAちゃんは阿川大樹の読者でもある。
「新作出たよ」とさっそく宣伝。
午前零時を回って、ゲート通りの「PEG」へ。
ギタリスト照喜名薫の店である。
ピースフルラブロックフェスティバルに、SKp(サミー・カオル・プロジェクト)として出演する。(あとで聞いたらこのバンドのベースが、リンリンで会ったコーゾーだった)
午前2時、宿にもどって長い一日が終わる。
すでに家から短パンです。