小泉政権が残したものの本当の価値

 時事通信が4月に実施した世論調査で、「首相にふさわしい政治家は、自民党の小泉純一郎元首相が21.2%でトップ」だったのだそうだ。
 僕は小泉政権を評価している。
 最大の点は旧来の自民党的スキームを壊したこと。
 郵政民営化を掲げて大勝利したのは、「支持母体の声を聞くのではなく世論全体の声を聞いて政治をせよ」ということだ。実は郵政民営化の是非などどっちであろうと、(たとえ支持母体に不利益であっても)「国民全体の声を聞く政府」に近づいた価値にくらべたらどうでもいいことだといってもいい。
 小泉政権は、大臣の起用スキームも変えた。
 小泉以前には「派閥推薦による大臣の椅子という特権の順送り」であったが、そのスキームも竹中平蔵の起用などで打破して見せた。
 たとえ竹中政策に賛否があっても、「派閥推薦順送り制打破」の利点に比べたら取るに足らない。
 このことは自動的に政官癒着の打破でもある。
 順送りによる無能な大臣は官僚の言うことを聞くだけの人間だが、専門家の大臣によるリーダーシップは、官僚の既得権への切り込みも可能にしている。
 国民年金問題が表に出てきたのも、守屋事務次官の防衛汚職が表に出たのも、知っていながらそれらを隠し続けていた官僚を許さない勢力が実権を持てたからこそだ。
 あいつぐトラブルの発覚にもかかわらず桝添厚生労働大臣は高く評価されている。派閥順送り方式から桝添大臣は産まれないし、「宙に浮いた5000万件の年金」だっていまだに表に出てきていなかったはずだ。
 道路特定財源という「聖域」に手をつけることが議論に上るのも、同じ理由による。国の借金がこれだけ増えたのも、税金の割に福祉や教育が貧困なのもすべて「既得権益」に準じた不適切な支出配分が根本原因なのだから、福祉や教育の充実にも、まず第一に既得権益を打破することが必要であり、それなしでは達成できない。
 ようするに、小泉改革の本質は、郵政民営化でも経済新自由主義でもなく、「選挙区の一部の利権からの独立による国民の全体的利益」「派閥順送り大臣人事否定による官僚も含めた既得権益の打破」なのだ。
 これは日本人が初めて健全な民主主義を手にすることができる方向性の基礎を作ったということだ。
 そのことに着目している人が小泉純一郎を評価しているのだと思う。
 一方で小泉政権の負の側面として「格差社会」が指摘されている。
 これについては別に述べたいと思う。
 けれど、たとえ格差社会になってそれが「負」ことであっても、リーズナブルな努力をする人が飢えて死ぬまでではない以上、健全な民主主義を手に入れることの計り知れない価値に比べたら取るに足りないとまで、僕は思う。
 そもそも「米百俵」のたとえで示したとおり、小泉政権は「ガマン」が必要であることを述べている。目の前の生活をすぐによくする政策は採らないぞ、それはみんなで覚悟しようぜ、といっていたのだ。国民をバラ色の希望で欺いているわけではない。ガマンが必要なマイナスになることもやるよ、と公言していた。
 将来的に格差を効率よく是正するためにも、既得権益で甘い汁を吸う人に税金を移動させるのを止め、国民全体の利益のために働く官僚機構や大臣をつくり、教育や福祉に効率よく税金を投入する基盤を作らなければならない。
 国が膨大な借金を抱えているという現状のなかから、健全なセーフティネットを構築し、充実したよい教育を確立し、日本を国際競争から脱落させないために、最大の敵である「利益誘導で票を集める政治」「保身的で利己的な官僚機構」を改革するのは絶対に必要なことだ。
 小泉政権がすべてにおいてよかったとは思わないし、よいと評価できる点も結果だけ見ればまだまだ不十分だが、方向を変えるために舵を切って見せた、というのは疑いのない事実であり、その成果は今も継続している。
 個別の政策よりも方向こそが重要である、ということを示したのも、日本の戦後民主主義で初めてかもしれない。

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