「著者が売る本屋さん」は触媒

「著者が売る本屋さん」は、媒体として本を接点に、場所として黄金町を接点にして、作家と読者、作家と作家、読者と読者、さらには、それらと町を行く通りすがりの人々を新しくつなげるプロジェクトです。
「著者が売る本屋さん」は、そもそも、こんなつながりによって生まれています。
 1976年、阿川大樹は野田秀樹らと劇団「夢の遊眠社」を立ち上げたことにより、女優・常田景子と出会いました。常田景子は、現在、黄金町から伊勢佐木町を挟んだ場所に居を構え、書籍に加えて、演劇の上演台本を中心に翻訳家として活動をしています。
 1999年、高嶋哲夫、新井政彦、阿川大樹は、第16回サントリーミステリー大賞の最終候補者として出会いました。
 高嶋哲夫は、「イントゥルーダー」で大賞・読者賞を受賞して同年デビューし、2005年には新井政彦が「ユグノーの呪い」で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞してデビュー、同年さらに阿川大樹も、ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞「覇権の標的」で小説家としてデビューしました。
 奇しくもサントリーミステリー大賞で読者審査員として、高嶋/新井/阿川の候補作を読んでいた汐見薫は、阿川よりも1年先に、同じダイヤモンド経済小説大賞優秀賞「白い手の残像」でデビューしています。
 2007年、阿川は黄金町を小説の題材としてウォッチしていました。近隣の若葉町にあるシネマ・ジャック&ベティで開催された「黄金町プロジェクト解散説明会」で檀原照和と出会います。
 その後、檀原照和は、2009年、黄金町地区を含む横浜の昭和史を克明に浮き上がらせるノンフィクション「消えた横浜娼婦たち」を上梓し、阿川は同映画館で行われた出版記念トークライブで檀原と再会します。今回、その檀原の紹介により、実体験にこだわる異色のノンフィクション作家・西牟田靖も本イベントに参加することになりました。阿川は、当日初めて、西牟田に会います
 2009年4月、阿川大樹は、縁あって、黄金町地区の入居アーチストとして執筆活動の場を移し、6月に第1回の「著者が売る本屋さん」を開催しました。
 11名の作家によるわずか43タイトルばかりのマイクロ書店は4時間で50冊以上を売り、新しい著者と読者、著者と著者の関係を産み出しました。
 第1回の参加者、ひかわ玲子、実川元子、野中邦子、すがやみつる、江崎リエ、山口芳宏、大崎梢、村松恒平、水瓶ジュン、中野幸紀は、1980年代にパソコン通信ニフティサーブ「本と雑誌のフォーラム」をはじめ、通信により居住地域も活動分野のちがいも越えて関係が拡がった仲間たちでした。
 初回参加の、村松恒平、水瓶ジュンは、今回の「著者が売る本屋さん」にも、再び参加しています。
 偶然、黄金スタジオのカフェ「試聴室ver.2」を訪れた歌人・日野やや子は、隣接する阿川大樹の仕事場に立ち寄り、「歌クテル」をひっさげて、今回、著者の一人として参加することになりました。
 黄金町という場所を介して、「著者が売る本屋さん」は、人と人を繋ぐ触媒として作用をしはじめています。
 それらのつながりが、いったいこれから何を産むでしょうか。
 どうか「著者が売る本屋さん vol.2」にご注目ください。