DAY1 手術の日:8月30日
9時5分前病室を出発。
下着なしでニーストッキングというセクシー路線〈病衣は着ている)
ニーストッキングはエコノミークラス症候群予防の為だそうだ。
5階手術室のアプローチで妻と母とに「いってきます」と手をふる。
隣では可愛いナースがいて、スタイリストバッグにレントゲンや書類を入れて並んで歩いている。
スライディングドアをくぐると、まず丸イスに座って、シャワーキャップのような帽子をかぶる。緑色の着衣の人たちがストレッチャーをもってくる。
踏み台からストレッチャーへ。
いよいよ手術台だ。
僕の上には銀色のシートがかけられている。それの陰で寝間着を脱がされる。
「背中に注射しますよ」
「点滴します」
天井には、いわゆる手術室のライティング設備。いやがおうでも、貧囲気がもりあがる。マスクをした女性の知的な美しい目にアラブの恋をしそう、なんて思っているうちに記憶は飛んでいた。
次の記憶は病室の手前。妻と母の顔が見える。出て行ったときとは別の、ナースステーションに近い部屋に運びこまれる。

とあえず麻酔から覚めたことを神様に感謝だ。(マジな話、全身麻酔が最大のリスクだと思っていたので)
左手に点滴、鼻には酸素、ペニスにバルンカテーテル、背中に硬膜外注射、と4点スパゲッティ状態だ。そして他に見えるのは天井。
手がとても冷たい。
腰に大きくはないがとんがった痛み。だが妙に温かい。(電気毛布がかけられていた)
いちばん痛いのはノド。手術中、呼吸確保のために管が入っていたのだそうだ。
両足は鉄腕アトムのブーツのようなものの中。これは機械で自動的に空気が入ったり出たりする、これもエコノミークラス痘候群予防の為。
午後6時頃、体温37.5度くらいの正常な徴熱。血圧正常、脈拍90程度。
午後8時すぎ、キズが痛みはじめたのでボルタレンの座薬を入れてもらう。夜勤のナースは初日にオリエンテーションをしてくれたHさん。
座薬は絶大な効果アリ。
うとうと細切れに眠るせいでよく夢を見る。妻でも愛人(几談)でもなく食い物の夢。なんてわかりやすい! 人間基本は色気より食い気。色恋も生きぬいてからのお愉しみ。
と、限られた姿勢の中で休み休みやっとこれだけ書いて時刻はまだ23時57分である。夜が長いなあ。でもこうして文章を書いているとまったく退屈しない。まもなく入院後丸4日になるけど、テレビを見てつぶすヒマというのがない。
夜中、やっぱり起きたお約束のトイレがつまる事件。第一発見者はやっぱりオバサンできっと犯人だと思う。
「びっくりしたわよ、ほんとに」
とあくまで被害者なのだと夜中なのに大声で十回くらいくりかえす。わかりやす~。
(翌日の取材によれば原因は、生理用品。現場は男女兼用車椅子トイレ)
推理作家は、ベッドにねたきりでも、このくらいの事件は解決できる。
