寝たきり日記(3)

手術後3日目 DAY4:9月2日
 午前3時40分、ついにナースコールを押して便器を持ってきてもらう。
 10分程がんばるがわずかにガスが出ただけ。くそ、たかが排便ごときがうまくできない。そしてそれがQOLを大きく低下させるのだ。
 次に入院するときは.もっと上手に糞をしてやるぞ。くそ。
 だぶん今日一日は宿便に苦しめられる曰となるだろう。
 病気と快適に戦うには、病気の知識だけでなく入院生活の知恵が必要だった。
 ウンコのマネージメントについてなんてだれも教えてくれなかったぞ。今回の入院で最大の苦痛は明らかにこれであって傷の傷みなんかではないような気がする。手術の痛みはこのトロールできるが、意外に排便はコントロールしにくい。
 手術の傷の痛みなんかよりも、便秘の方がよっぽど辛い。
 逆にいえば便秘の人ってふだんから大変だってことなのか。宿便侮りがたし。便静粛宿夜川を渡る。
 少し前から右手親指が痺れている。なんだろう。
 朝食最小限。
 ひさしぶりに青空で気持ちがいい。
 日曜で回診もないので午前中は静かな時が流れる。
 寝たまま飲む水を飲みそこなってむせると傷に響く。もちろん笑っても響く。くしゃみは最悪。
 これ以上腕力が弱ると、やがてはベッド上で姿勢を変えられなくなってくる。そうなると床擦れが始まるわけだ。こうして死んでいく人の転落の道が見えてくる。これも今回の重要な取材成果だ。自分で死んでみないと死人の小説が書けないのでは小説家はできない。人の死を書くためにもずっと入院したいと思っていた。やっとチャンスがめぐってきたわけだ。
 ヨットに乗ったら気持ち良さそうな日曜日。
 昼食、ハンバーガーとホットドッグ。わお。ひさびさに前のめりになって食べる。目の前の食欲が宿便の恐怖を凌ぐ。上海の女スパイにまんまとやられた自衛官の気持ちがわかったような気がする。(笑)
 やっぱりあった。(僕には関係ないけれど)お風呂の順番トラブル。
 病院を舞台にドラマを作る時なんかは、つかえるエピソードだ。
 隣の人は明日の手術を前に、神経質になっている。
 午後5時、軽い床擦れになりはじめ。頻繁に姿勢を変える。多分病気はここからが辛いのだと思う。予定通りならこちらは明日から起きられるが、そうでない人は絶望的な無限連鎖と戦いながら、同時に病と闘うわけだ。
 真面目なテーマとして、床ずれの研究はもっとやったほうがいい。患者のQOLにとってきわめて重要。
 後ろ臭{うしろが}。僕の造語(笑)
 自分が移動した後からっいてくる自分の匂い。シャンプーしたい。病院で死ぬということはこういう匂いを発散させて死ぬということなのだな。
 別に自分が死ぬことを考えているわけではなく、あくまでこの機会に「病院で死ぬ」人物を書くときのために、自分を使って取材をしている。この日記を読んで、阿川大樹が悲観的な考えに陥っていると誤解しないでくださいね。
 むしろ病院の日々は思った以上の取材成果で毎日わくわくしています。
 ちょっと長い日程で取材旅行をしているようなつもりなので。ここのところいくことができないでいる沖縄取材旅行の代わりみたいなもの。まさに同じくらい楽しんでいます。
 寝る前の検温37,0度。このあたりは快適に過ごすためにアイスノンと下剤をもらう。

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