お仕事のちょっと生々しい話

 午前10時過ぎ、枕元で携帯が鳴る。
 S社の編集Sさん。
 午後1時半に横浜駅近くで会って、連載小説のゲラを受け取る。
 7月6日発売の小説誌の巻頭に掲載と。ありがたいことです。
 ただし、原稿料は想定範囲内の下の方。
 連載、単行本、文庫、とこの長編には3度稼いでもらえるので、とりあえずそれがありがたい。
 小説家のビジネスモデルはこのパターンが基本。
 いままで、単行本から文庫、連載から文庫、と2回しかお金が入ってこない形だったので、やっと基本パターンに。
 ただし、これから着手するK社の長編は文庫書き下ろしなので、1回しかお金が入ってこないパターン。
 もちろん、重版がかかれば、その都度、印税が入るけれど、世の中の99.9%の本は初版だけで増刷されないので、ビジネスとしてリーズナブルにカウントできるのは初版だけ。重版印税は想定外のボーナスくらいに考えておかなくてはならない。
 ちなみに小説家の所得は実際にどれくらいの収入になるかが事前にわからず、場合によって上下にものすごく変動があるので、税法上は漁業者と同じ「変動所得」という区分になっている。
 船を出してもまったく魚が捕れないこともあれば、どんとニシン御殿が建ってしまうこともある、そういう業種だということです。
 僕くらいの知名度の作家の場合、単行本よりも部数が出る文庫はプレゼンスを上げるための媒体としてはよいのだけど、一方で、労働に対する収入という観点からは文庫書き下ろしばかりでは、生活が立ちゆかない。
 それでも、つきあいのある出版社/編集者の幅を拡げていくことも、小説家として生き残る為には重要で、つきあいのなかった出版社との仕事もできるだけ受けて、パイプを太くしていかなくてはならない。
 もし一社としかつきあいがないと、担当編集者が社内で異動になったり退職したりしたとたん、まるっきり仕事がなくなってしまうことだって考えられる。
 そんなこんなを考えるのも、書くのは自分一人で、書くことのできる量は限られているので、プロモーション/マーケティングと収入のバランスを常に考えておく必要があるからだ。
 
 それにしてもゲラは編集のコメントで真っ赤っか。
 着手するにはちょいと気を引き締めて勢いをつけないと、心が折れてしまう。