仕事でたぶん3回、ボストンに行ったことがある。
そのたびに、朝、町の中やケンブリッジとの間の流れる川沿いを走った。大勢のランナーに出会い、笑顔で挨拶をしながら走るのが楽しかった。
ボストンは美しい町で、アメリカの都市の中でもとりわけ好きな町だ。
アメリカの都市の多くが持っている、すさんだ刺々しさのない、心安らかに居られる町。
3月にマラソンを走った後、カナダにいる弟に完走の報告をしたら、彼はこんどボストンマラソンに出ると言っていた。
それが何月何日なのか覚えてもいなかったが、朝のニュースで爆発があったと知った。
メールを出したらすぐに返事が来た。
自分と妻は無事だ。妻は現場から80mのところにいたと。
そのときはとにかく無事でよかったとさらりと思った。
それから80mという距離はどういう距離なのだろうと思った。
彼女が何を見たのか、いろいろなことを考えた。
やがて、怒りがこみ上げてきた。
生きていてよかったと涙が流れた。
オートバイで10kmほどのところにある墓地にいき、そこにいる父に、これからも家族を守ってくれと手を合わせた。
