用賀 D’s Kitchen

 ちょっとした理由で、用賀の居酒屋へ飲みに行った。
 店の名前は D’s Kitchen という。名前からなんの店かわかりにくいけど、焼鳥や焼きトンなどの串焼きを中心にした和食の飲み処である。
 用賀駅北口から徒歩3分のはずが、駅前に「くすりのセイジョー」がふたつあったせいで。まるで反対の方向へ歩いていってしまって、到着までに15分かかり、少し人を待たせてしまった。
 瓶ビールで始めて、燗酒がいいなと、壁の掲示でおすすめの「吉乃川」。
 最近、なんでも冷やで出す地酒をたくさん並べる店が多いけれど、燗酒を薦めているのはいいセンスだし、結果、おいしくもあった。
 驚いたのは徳利が届いたときに、杯がほんのりと温めてあったこと。焼き鳥が130円から200円という店で、この気遣いにはびっくりさせられる。
 焼き物も揚げ物も、安い値段であるのにいい材料を十分に使って、つまり、いい材料だからといって高くしたり小さくしたりすることなく、ごく当たり前のように出てくる。
 近頃の焼鳥屋は二極化していて、タイあたりで串に刺してそのまま冷凍で輸入されるものを安く出す店と、店内にジャズを流したりして一合千円以上の冷酒を並べながらいい材料を丁寧に焼いて出す店とに分かれてきている。
(カッコだけで駄目な店ももちろんある)
 前者は大体ひとり千五百から三千円、後者は四千円から五千円くらいになることが多い。
 D’s Kitchen は内装と材料が後者で値段が前者だからビックリするのだ。
 その上、従業員の女性たちも全員きちんとしていてとても感じがいい。
 焼き物だけじゃなくて、サラダもササミの炙りも手羽揚も、ことごとくおいしかった。決して濃すぎない味で素材を活かしているかと思えば、鶏皮の串のタレはしっかりとして酒の香りを上手に使ったものだったり。
 〆に頼んだ石焼きビビンバ風の器で出てくる「タコライス」も器で掻き混ぜるとチーズがとろけてとってもおいしかった。
 料理すべてに創意工夫があるし、胸をはっておいしいものを出そうという心意気のようなものが自然に感じられる。
 なんていうのかな、本当の意味で上品な店なんだな。
 いいものをおいしく出して自然に客が喜んでお金を払うという、飲食店と客の真っ正直な関係をまっとうな手段で創り出そうとしている。
 思いつく限り、するべき事を躊躇なくやっている。そんな感じなのだ。
 世の中においしい店はたくさんある。おいしくするにはコストがかかる。だから、多くのおいしい店はそれなりに高い。いい材料を使って丁寧に作って「どうだ」と出してきて、しっかりお金も取る。見合ったものを出してくれれば、それで全然かまわない。
 だけど、この店はその「どうだ」と胸を反らして客に突きつけることすらしないで、いいものを出しているんだから高くても当然だという意識すら漂っていない。
 店として、一点の曇りもなく、まっすぐに旨いものを食わしてくれる。
 ほんとに驚いてしまう非の打ち所のない店だった。二十一世紀になって、いちばん驚いた飲食店でした。
 あっぱれすごいよ、D’s Kitchen 。
 さんざん飲んで食べて、会計はひとり三千円。
 五十年以上生きてきたけど、確実に五千円のものを食べた感じがする三千円だった。
 こんな店が家の近くにあったらどんなに人生が豊かだろう(笑)と思うけど、なんにしても、残念なことに横浜と用賀はそれをつなぐきっかけがなさすぎる。
 東急田園都市線沿線のみなさま、騙されたと思って用賀で降りて行ってみてください。びっくりしますから、ほんと。

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