伝説の深夜食堂

 遅くまで、つまり、この文脈では、午前2時をすぎてやっている飲食店に日本食屋は少ない。
 午前3時前に仕事を終えて、三食目を食べて帰りたい、と思うとさすがに選択肢が少ない。
 ネットで検索しているうちに、話だけは聞いたことがある宮川町の阿部茶という店があることを思い出した。
 ほぼ徒歩通勤の通り道にあるのだけど、営業していない時には店の痕跡がまったくない。
 午前2時半だか3時だかに開店すると暖簾が外に出るので、やっとそこに店があることがわかる。それ以外の時間帯には看板すらない。という蜃気楼のような店だけど、美味しくて安いという評判だけは聞いていた。
 午前3時に事務所を出ることになったので、ちょうどいい。
 入ってみると、カウンターがほぼ一杯。
 僕が入店した直後にパフィーの感じの女性二人組が入って満員。
 何があるのかよくわからないけど、刺身はあるらしいので、刺身盛り合わせと瓶ビール(中瓶)を頼む。
 出てきたらこれが立派な刺身。
 これで合計2500円でも文句はない、という品質だけど1600円だった。
「野毛でいちばん刺身が美味しい店」と看板に掲げているのは桜木町の駅に近い「小半(こなから)」で、たしかに美味しいけど、でも、ここ「阿武茶」(正確には「茶」に濁点がついているので「あぶじゃ」というらしい)の方が上だと思った。
 おじやを食べていたのはどうやらどこかの店のママと歌手とマネージャーという感じの2人組。
 隣に座ったパフィー組はビールとそれぞれに具の違う味噌汁を頼んでいた。パフィー(若く見えるけどたぶん歳は三十くらい)も仕事が終わって来たところのようだ。
 聞こえてくる彼らの会話も、それぞれに人生を自然に表現していていい感じ。
 店の人も感じがいいし、客の方も店へのリスペクトを持っている感じのいい店。