(写真はあとで改めて)
ベネチア発チューリッヒ行きのスイス航空は14:40発。
問題はベネチアと本土を結ぶリベルタ橋がトラムの建設で工事中だということ。
今月から始まって18ヶ月間かかるという。
(イタリア人はだれも18ヶ月で予定通り完成するとは思っていないみたいだけど)
空港までのバスは乗れば30分かからないけど、工事の影響が読めない。
Alli Laguna という会社の水上バスで空港に行けば影響は避けられるが、そもそも時間がかかる上に値段が二十数ユーロ。バスなら5ユーロ。
というわけで、10時半過ぎに家を出る。
まるで遠い遠い成田空港に行くみたい。
バス停のある Piazzale Rome は徒歩で15分ほどだが、荷物があるので、San Stae から水上バスに乗る。水上バスは観光客なら7ユーロだが、住民向けのカードに回数券をチャージして使えば1回あたり1.1ユーロで乗れる。
バスは思いの外順調。
おかげで、早く着きすぎて、まだチェックインカウンターも開いていない。
空いている椅子を探して時間つぶし。
チェックインまもなく列に並び、荷物を預けたところで食事。
Panino Romanha とビールで9ユーロ。
どうやら空港は、標準的な飲み物が、X.10ユーロ、食べ物がXI。90ユーロに統一していて、一緒に頼むと端数が出ないようになっている。
なるほどね。
セキュリティゲートの外にはほとんんど何もないので、ゲートをくぐる。
いつものようにコンピュータはバッグから出して、別にトレイに載せる。電子辞書と携帯電話、あとは金属探知機を通れないユーロの小銭。
そこで事件は起こった。
トレイから小銭と電子辞書とコンピュータを出してカバンにしまおうとしたその瞬間……。
カバンがない。
似たようなリュックサックが残っている。
しばらく待ってみるが自分の荷物が出て来る様子はなく、残ったカバンを取っていく人もいない。
これは大ピンチ!
パスポートも搭乗券もバッグの中だ。
14時40分までにこの問題が解決しないと、僕はベネチアから動けなくなる。
間違えてもっていった人間が気がつかないまま、飛行機に乗って世界のどこかへ行ってしまえば、どんなに早くても問題解決にに数日かかるだろう。
もどってこなければ、パスポートの再発行のために領事館か大使館のあるところまで行かなくてはならない。
それは、ローマか、ミラノか。
海外にいるときには、現金10万円を盗まれるよりもパスポートをなくすことの方がダメージが遥かに大きいのだ。
それがまさかセキュリティ・ゲートで起きるとは。
クレジットカードやキャッシュカードを無効にして、また再発行するためのうんざりする手続きの山が頭をよぎる。
カメラももどってこないだろうなあ。幸い写真はすべてパソコンにバックアップしてある。
「自分のバッグがない。ここに似たバッグが残っているので、誰かが間違えていいったと思うのだが」
「それはあなたのではないってことか?」
「そう。僕のじゃない」
「なるほど」
「このカバンの中に何か持ち主の手がかりになる物があれば、その持ち主を放送で呼び出してみてもらえないかな」
「そうしよう」
係員がカバンの中を探し始める。
「間違ってもっていった人が飛んでしまうと困るんだ。僕はこれから日本へ帰らなくてはならないから」
「大丈夫みたいだ。パスポートが入っていた。パスポートがないと飛行機に乗れないから」
まあ、一安心。
係員はどこかへ電話をして、パスポートを見ながら名前を読み上げている。
これで解決すればいいが、見つからなかったときの「イタリア当局」の絶望的な対応の遅さを思って、呆然とする。
(まあ、小説家というのはこういうのもネタになると思って、どこかで楽しんでいるのだけど、買ったチケットは使えなくなるから、10万円単位のお金が無駄になることは覚悟する必要がある)
待つこと5分くらいだっただろうか。
小太りのライトブルーのポロシャツの男が係員にともなわれてやって来た。僕のカバンを肩にかけている。
「似てるからね」
それからはお互いに自分の鞄の中身を確かめる。
(向こうがこっちを疑うのは筋違いだが、当然必要なことだ)
パスポート、クレジットカード、搭乗券。オーケイ。
おもえば僕の後ろにいたドイツ人、すごくせっかちな感じで、なんども列から横へはみ出して、前をうかがっていた。
出発時刻が迫っていたのかもしれない。その後、彼が自分のフライトに乗れたかどうかはわからない。
もし荷物を預けていれば、荷物を積んで持ち主が乗らないフライトは、(荷物が爆発物である可能性があるため)荷物を降ろすまで絶対に飛ばないから、飛行機自体の出発が遅れたかもしれない。
係官に礼を言ってその場を後にする。
早めに出たことが災いしたのか幸いだったのかわからない事件。
と、ほっとしたのも束の間だった。
アパートに残っている妻に出発前に電話しようと思ったところが、今度は電話機がない。
金属探知機を通過する前に、パソコン、電子辞書、小銭、それらと一緒にポケットにあった携帯電話もトレイに入れたはずだ。
小銭は出したのだけど、途中でカバンがないのに気づいて、携帯電話のことを忘れていた。
動揺して注意散漫になった。さっきのは間違えてもっていった男のミスだけど、今度は僕自身の失敗だ。
というわけで、こんどは僕がセキュリティチェックの場所に後戻り。
すると、さっき面倒を見てくれた係官と目が合って「電話だろ?」。
「そうそう」ってわけで、無事に電話も手元にもどった。
飛行機や空港のセキュリティを守るセキュリティチェックのエリアが、僕にとってはいちばん
セキュリティが低い場所だったというわけだ。
教訓。
手荷物検査機のベルトコンベアに入れるときは、カバンを先に入れてコンピュータは後に入れるべし。
じゃあ、コンピュータが似ていたらどうする?という問題はあるが、僕のノートパソコンは、Windowsマシンであるパナソニックのレッツノートに、アップルのリンゴのマークのシールが貼ってあるので、そうそう似たものはない。
(そういえば、昔、ホンダのバイクのタンクにヤマハのシールを貼っていたら、ホンダの修理工場でヤマハのバイクだと思われたことがあった)
サムソナイトのスーツケースも、昔々、成田で間違えて持って帰られたことがあり、それ以来、ベタベタとシールを貼ったりして、他に似たスーツケースがないようにしている。
思えばその教訓が活きていないことになるけど、手荷物検査は盲点だったなあ。
